

第1回 デザインが病院を救う 7割が赤字の時代だから、今こそ「環境」を見直してみる
7割の病院が、赤字という事実
厚生労働省「医療経済実態調査」(2024年度データ)によれば、一般病院の約7割が赤字経営に陥っています。物価高騰・人件費上昇・診療報酬の伸び悩みという三重苦のなか、経営改善の糸口を探している経営陣は多いのではないでしょうか。
設備投資、電子カルテの導入、人材確保——。経営改善の打ち手はいくつも語られます。 しかし、意外と見落とされがちな視点があります。それは「環境デザイン」です。デザインと聞くと「お金がかかる」「医療とは関係ない」と思われるかもしれません。私自身、看護師として病院で働いていた頃は、そう感じていた一人でした。
一輪のガーベラが教えてくれたこと
大学病院の小児科に勤務していたある日、白血病で闘病中の担当の女の子のベッドサイドに、彼女が好きだと言っていたガーベラの花を一輪飾ってみました。
「看護師さん、ありがとう」
それまで笑顔を見せたことがなかった彼女が、初めて笑ってくれました。
さらに驚いたことに、その後血液検査のデータも良くなり、回復へと向かってくれたのです。
もちろん花が治したわけではありませんが、心の状態が患者さんに与える力を実感した出来事でした。
「患者さんに必要なのは薬や化学療法だけでなく、美しいものに触れ、明日に向かって生きようという気持ちなのだ。」
そう確信した私は病院を辞め、イタリアのミラノへデザイン修業に赴きました。
そこで目にしたのは、日本の医療施設とはまったく異なる光景でした。
病院も高齢者施設も、殺風景な「箱」ではなく、まるで家のように温かく、美しく、人が生き生きと暮らせる空間だったのです。
なかでも音楽家ヴェルディが建てた高齢者施設「Casa Verdi(カーザ・ヴェルディ)」は、音楽とアートが満ちていて入居者の顔が輝いていました。
これこそが高齢社会の日本に必要なものではないか——。
イタリア留学から帰国した私はすぐに一級建築士を取得。以来24年あまり、病院・クリニック・高齢者施設のデザインに携わり続けています。
その中には、来院患者数が3倍になった、自由診療の売上が伸びたなど、デザインが効果をもたらした医療施設が数多くあります。

「選ばれる施設」には必ず理由がある
患者さんは、医療の質だけで病院を選んでいるわけではありません。 「なんとなく落ち着かない」「放置されているような気がする」・・・・ そうした漠然とした不安が再来院の足を遠ざけることがあります。待合室の照明を変えただけで待ち時間のクレームが減った、受付カウンターを改修しただけで良い人材が集まるようになったクリニックがあります。 小さな改善の積み重ねが患者さんの信頼を生み、スタッフの誇りを育て、施設全体のブランドをつくっていくのです。
デザインはコストではなく、集患・リピーター・スタッフ定着に直結する、最も費用対効果の高い経営投資のひとつなのです。
このシリーズでお伝えすること
デザインというとプロに依頼するもの、お金のかかるものと思われがちですが、このシリーズでは今日から現場でできる改善や、コストをかけずに印象を変える工夫もお届けします。 経営にデザインを。 ご自身の病院・クリニック・高齢者施設がブランド(唯一無二の存在)になること・・・ それが経営におけるデザインの存在価値です。 成功事例をご紹介しながら、ポイントをかみ砕いて、皆様が使えるアイデアをお伝えします。


次回・第2回は「その掲示物、患者さんに届いていますか?」をお届けします。 伝えたいことをあれもこれもと掲示するほど、何も伝わらなくなる。そのことを知るのと知らないのとでは大きな差が生まれるのです。

ナイチンゲールに憧れ「将来の夢は看護師さん」と小学校の卒業文集に書く。慶應義塾大学病院の看護師として勤務するなかで環境デザインの力を確信し、建築士に転身。二級建築士を取得後、35歳でイタリア・ミラノの建築大学に留学、世界的巨匠パオロ・ナーバ氏に師事。イタリア政府認定デザイナーを取得し帰国後、一級建築士取得。株式会社ドムスデザイン設立。「リゾートしながら人間ドック」をコンセプトにデザインした黒沢病院附属ヘルスパーククリニックをはじめ、100を超える病院・クリニック・高齢者施設の設計・改修を手がける。来院患者数3倍、自由診療売上増など、経営に直結する成果を生み出し続けている。
【著書】 『医療の場を整える環境デザイン』 日本看護協会出版会 他