

第6回 地域医療連携推進法人のススメ(後編)
「医療、介護、福祉の切れ目のないサービスを、 将来にわたって安定的に提供」するための「垂直連携型」、がんの放射線治療の共同利用に特化した「水平連携型」が代表的
人口減少、医療人材不足、新型コロナウイルス感染症禍後の患者数減少、物価高、円安、人件費高騰など、医療機関を取り巻く環境が激しさを増す中、地域医療連携推進法人に注目が集まっています。前回は制度の概要について解説しましたが、今回は典型的な活用例を紹介します。
連携推進法人には様々な活用のパターンがあります。代表的なのが地域で高度急性期機能を担う大病院(地域医療支援病院など)が主導して、地域内で患者をシームレスに引き継ぐ仕組みの構築を図る「垂直連携型」です。
そのほかにも、医療機能が同等、あるいは似通った医療機関同士による「水平連携型」のケース、公立・公的病院を中心に再編・統合に向けて連携推進法人を活用するケース、大学病院が地域の複数の医療機関を取り込んで設立するケースなどがあります。
人材交流、診療機能の重点・集約化、地域フォーミュラリー、医療MaaS活用しオンライン診療⋯⋯
「垂直連携型」の代表例は、2018 年に設立された山形県酒田市の地域医療連携推進法人・日本海ヘルスケアネットです。山形県・酒田市病院機構が運営する日本海総合病院(山形県酒田市、590床)を中心に、14の法人等(医療法人、社会福祉法人、医師会、薬剤師会、酒田市等)で構成されています。「地域包括ケアシステムのモデルを構築し、医療、介護、福祉の切れ目のないサービスを、 将来にわたって安定的に提供」することを理念に、日本海ヘルスケアネットは、参加する医療機関・介護施設間で次のような多種多様な連携業務を行っています。

患者数減少がさらに進めば広域化も視野に
人口減少が急速に進む山形県・庄内地方において、基幹病院である日本海総合病院が中心となって、他の医療機関・介護施設等とともに生き残るために設立された日本海ヘルスケアネットですが、次なる展開も視野に入れています。現状、酒田市を中心に北庄内地域の法人を中心に構成されていますが、人口減少、患者数減少がさらに進めば、北庄内、南庄内(鶴岡市など)というエリアを超えて、山形市の医療機関や、県外、秋田県の医療機関との連携も想定しているとのことです。
今年7月に公表された「地域医療構想策定ガイドライン」では、人口減少地域での構想区域の統合や、都道府県をまたいだ連携についても詳細に記されています。今後、連携推進法人についても広域化が検討すべき重要な課題として浮上してくるでしょう。
民間医療機関主導でがんの放射線治療の共同利用を推進
「垂直連携型」とは異なる、ユニークな連携推進法人制度の活用事例としては、2025年4月に兵庫県の認可を受けた地域医療連携推進法人・神戸圏域放射線治療共同利用連合(神戸市中央区)の取り組みが注目されています。
神戸圏域放射線治療共同利用連合は、民間医療機関が主導して設立されたがんの放射線治療の共同利用に特化した連携推進法人です。圏域内でがん治療に携わる公民合わせて10施設が参加して設立されました。神戸中央病院、神戸海星病院、済生会兵庫県病院、甲南医療センター、神戸陽子線センターなどが参加しています。がん医療に取り組む医療機関同士の「水平連携型」のケースと言えます。
同連合の設立を主導したのは医療法人・神戸低侵襲がん医療センター(通称KMCC、80床)で、元々は神戸大学病院の放射線治療を補完するために2013年に設立された医療機関です。定位放射線治療装置であるサイバーナイフ、強度変調放射線治療(IMRT)専用のトモセラピー、汎用型のトゥルービームを装備し、神戸大学病院をはじめ、県内のがん診療連携拠点病院などからの治療依頼に対応してきました。年間患者数は新規で約900~950人、延べ治療件数は約1,200件とのことです。
地域の経済に及ぼす効果は10年間で約40億円のコスト削減
代表理事でKMCC理事長・病院長の藤井 正彦氏は昨年、医療経営誌(日経ヘルスケア)のインタビューで連携推進法人設立の理由を、「コロナ禍後の患者数の減少、物価高と円安による放射線治療装置の高騰、損益分岐点となる1台当たりの新規治療患者数がこれまでの年間約250人から350~400人にまで上昇してきたこと、地域における放射線治療機器の効率的活用が喫緊の課題になってきたことなどが連携推進法人を設立した主な理由だ。(中略)放射線治療を集約化することで、当院としては検査件数が増え採算性が上がるので、機器の更新が容易になる。また、症例数の増加に伴い治療精度は確実に向上するし、放射線治療専門医や医学物理士の人材育成体制も整えられる」と語っています。
さらに、藤井氏は連携推進法人設立が地域の経済に及ぼす効果について、「年間の延べ治療患者数を1,200人と仮定した試算では、6施設に分散して6台の治療装置を設置して治療するより、KMCCに集約して3台で治療する方が、10年間で約40億円のコスト削減が可能になる。今後の物価高を考えると、削減効果はもっと大きくなると見込まれる」とコメントしています。共同利用は地域の医療機関全体のキャッシュアウトを大幅に削減する効果があるというわけです。
連携推進法人制度を医療機器の共同利用に活かす
がん診療連携拠点病院などが無理して放射線治療機器を導入し、検査件数が伸びず赤字に苦しむ例は少なくありません。そうしたことから、2025年8月に厚生労働省の「がん診療提供体制のあり方に関する検討会」が公表した「2040年を見据えたがん医療提供体制の均てん化・集約化に関するとりまとめ」でも、放射線治療装置の効率的な配置や、高度な放射線療法の集約化が提言されています。神戸圏域放射線治療共同利用連合はこの提言をまさに先取りした取り組みと言えます。
がんの放射線治療装置に限らず、医療機器の価格とそのランニングコストの高騰は続いています。そうした意味からも、連携推進法人制度を医療機器の共同利用で活かす、という神戸圏域放射線治療共同利用連合の事業スキームは、今後全国に広がっていくでしょう。

愛知県生まれ、日経BP社にて日経メディカル、日経ヘルスケア、日経ドラッグインフォメーション等、医療媒体の編集長を歴任。2020年に独立、医療ジャーナリストとして活動。