2026-10-13

第5回 患者さんに優しい受付カウンターのつくり方

カウンターは単なる受付の場ではない

受付カウンターは、単に受付をするだけの場所ではありません。
患者さんが医療施設に入って最初に訪れる場所がここです。来院時に抱えていた不安や緊張が安心に変わるか、それとも増してしまうかを左右する大切な場です。
忙しさに追われて下を向いたまま事務的に対応してしまえば、どんなに立派な設備を整えても施設の印象は冷たいものになります。逆に、あたたかく迎え入れる場として設計されていれば、患者さんは言葉にしなくても「大切に扱われている」と感じ、その安心感がそのまま治療への信頼につながっていきます。
そして受付カウンターは、患者さんのためだけの場所ではありません。受付スタッフが一日の大半を過ごす「働く場」でもあります。スタッフ同士のコミュニケーションがとれやすく、必要な時にすぐ動ける動線が確保されていてこそ、患者さんへの気配りにも余裕が生まれます。
患者さんと医療施設、双方の関係性をつくり、さらに仕事の効率化も左右する医療施設の中でも最も大切な司令塔が受付カウンターなのです。

カウンターの設計・デザインのポイント

では、受付カウンターの設計ポイントはどんなところにあるでしょう。
下記に10個のポイントを挙げます。

POINT01

院内に入ってすぐにわかりやすい場所にある

医療施設を訪れた際に一目でわかりやすく、自然と足が向くようになっている。

POINT02

受付スタッフが患者さんを認識しやすい

入口から受付カウンターまでに障害物がなく、受付スタッフは入って来た患者さんに気が付きやすい。

POINT03

カウンターを前にして患者さんが迷わない

「初診」の患者さんも、「再診」の患者さんも、迷わず辿りつけることが大切。
患者さんがウロウロして、スタッフに質問が増えると仕事の効率も下がる。

POINT04

カウンターの高さが丁度良い

立って受付するのか、座って受付するのかでそれぞれ適切な高さがある。

立って受付する場合

推奨高さ=1,000~1,100mm
高齢者や女性が多いクリニックは低めの1,000mm程度でよい。

椅子に座って受付する場合

一般的なデスクの高さ。700~740mm。

車椅子の場合

720~750mm。天板の下に膝が入るスペースが必要、
天板はなるべく薄く造る。

POINT05

荷物置き台、杖や傘を置く場所がある

カウンターの一部に荷物置き台があるとよい。
もし無い場合は、荷物置き台を別途置く。倒れにくく安定している事が大切。

POINT06

適切な照度がある、お互いの顔が暗くならない

カウンターの上で、書類を渡したり、記入したりしてもらう事が多いので暗すぎたり、照明の影で書類が見えにくいなど不都合が無いようにする。

POINT07

隣の人との距離が確保できている

感染予防やプライバシー確保のために、隣同士の患者さんが近くなりすぎない事が大切。難しい場合は見た目の良いパーテーションを立ててそれらを予防する。

POINT08

カウンター越しに他の患者さんの個人情報が丸見えにならない

受付の中のスタッフのパソコン画面が丸見えになっていないか。患者さんの個人情報が漏れていないか、患者さんの位置に立ってチェックすることが大事。どうしてもその位置からモニターが見えそうな場合は、覗き見防止フィルムを貼るなど対策が大事。

POINT09

受付カウンターの背面も大事。トータルで考えること

受付カウンターだけでなく、患者さんの視界に入る背面の壁も大事。カルテや書類で雑然としていては台無し。美しく、施設のロゴマークや適したアートを飾るなどカウンターと背面はセットで考える。

POINT10

患者さんサポートが必要な際に受付スタッフがすぐ出られるか

遠回りしなくてもカウンター内から外へ出られる動線が確保されている。または、カウンターの一部が切れていて、スタッフが内から外へすぐに出られることが大事。

患者さんに優しいカウンターのつくり方

これから新しく医療施設を造ったり、改装したりする場合のアドバイスは、カウンターひとつでも建築士に任せきりにせず、患者さんの動き、スタッフの動きを検証しながら出された図面通りでよいのか、チェックしてみる事です。
医療施設それぞれに患者さんの年齢層や性別、疾患の傾向などあり、特性で変える必要があるものの、建築士がそこまで配慮が至らない場合があるので、本当にそれでよいかをチェックすることが大事です。
大きな施設なら、本物と同じサイズのモックアップを造るとよいでしょう。全部でなくてもカウンターの1m程度を造ってみると使いやすいか、問題点が無いかがよくわかります。そこまでコストが掛けられない場合でも、高さが何センチなのか、奥行きは・・・というように実際の寸法を体験してみることが大切です。
意外と見落とされがちなのが、カウンター内部の設計です。コンセントの位置や数(最近は多めに作ることが必要です)、配線ケーブルの納め方、パソコンの画面と患者さんの目線と大きく顔を動かさなくて済む位置関係や、スタッフが仕事しやすい作業台の奥行き・・・など、内部の設計いかんで仕事の効率も随分変わります。
また受付スタッフを検討会に参加させることで自分たちがより良いカウンターを造るのに貢献したという意識を持ってもらうのも大切なポイントです。

今日からできるカウンターのバージョンアップ

最後に、今日からできるカウンターがバージョンアップする工夫をお伝えします。

◆観葉植物や生花を一輪飾るだけで、カウンター全体の印象は驚くほどやわらかくなります。造花でも構いません。人の手が加わった「気配り」が伝わることが大切です。

◆カウンターの高さを変えられない場合は、スタッフの椅子を変えるだけでも印象は変わります。目線を合わせて話す、少し前傾姿勢で迎えるなど、体の使い方ひとつで優しさは十分に伝えられます。

◆荷物置き場がない場合は、背もたれの無い椅子で代用も可能。またはカゴを置くだけでも患者さんの負担は減ります。

◆照明を交換できなくても、カウンターの上にスタンドひとつで顔映りは大きく変わります。

◆隣の人との距離やプライバシーが気になる場合は、パーテーションや観葉植物、掲示物などで視線をやわらかく遮るだけでも効果があります。

最後に提案ですが、「この受付で患者さんにどのような気持ちになって欲しいか」をスタッフ全員で話し合ってみる事が大事です。ハード(設備)が変えられなくても、ソフト(意識と所作)は今日から変えられる立派なおもてなしです。

‍


おもてなしのカウンター事例

ホテルのコンシェルジュのように座って受付する受付は患者さんを丁寧におもてなしする証となった
(鈴木慶やすらぎクリニック)
色違いの水平ラインは荷物置き台でありながら車椅子での受付へと伸びている
(麻布台ヒルズクリニック)
背面の色合いもトータルでデザイン。スタッフが出やすい様、一部を空けたカウンター
(フラワー薬局)
戸倉蓉子
(
とくらようこ
)
株式会社ドムスデザイン 代表取締役社長
一級建築士・イタリア政府認定デザイナー・元看護師

ナイチンゲールに憧れ「将来の夢は看護師さん」と小学校の卒業文集に書く。慶應義塾大学病院の看護師として勤務するなかで環境デザインの力を確信し、建築士に転身。二級建築士を取得後、35歳でイタリア・ミラノの建築大学に留学、世界的巨匠パオロ・ナーバ氏に師事。イタリア政府認定デザイナーを取得し帰国後、一級建築士取得。株式会社ドムスデザイン設立。「リゾートしながら人間ドック」をコンセプトにデザインした黒沢病院附属ヘルスパーククリニックをはじめ、100を超える病院・クリニック・高齢者施設の設計・改修を手がける。来院患者数3倍、自由診療売上増など、経営に直結する成果を生み出し続けている。

‍

【著書】 『医療の場を整える環境デザイン』 日本看護協会出版会 他

‍

株式会社ドムスデザイン

#
第一フェーズでは非表示
#
タグダミー
#
タグが入った場合