2026-10-26

第10回 2026年診療報酬改定で新設された外科医関連加算の意味を考える(後編)

ダヴィンチなどのロボット支援手術の症例数を評価する「内視鏡手術用支援機器加算」、200症例未満の施設は採算取れず撤退か?

今回も前回に引き続き、2026年診療報酬改定で新設された外科医関連の報酬のうち、地域の医療機関の機能再編・集約化を加速すると考えられる項目について考えてみます。

前回は、外科系診療科(消化器外科、心臓血管外科、小児外科、循環器内科)の医師の勤務環境改善と処遇向上を評価するために設けられた「地域医療体制確保加算2」と、胸部(食道)から腹部(胃、腸、肝胆膵)にかけての鏡視下手術を中心に長時間かつ高難度な手術料に対して設けられた「外科医療確保特別加算」を取り上げました。どちらもその細かな要件を変更するだけで今回の対象診療科・対象手術以外にも適用することが可能なことから、機能再編・集約化に向けての“最終兵器”になるかもしれないと書きました。

外科医の採用・確保などを目的に、中小規模の急性期病院でも無理をしてダヴィンチを導入したところも

今回取り上げるのは、ダヴィンチなどのロボット支援手術の症例数を評価する「内視鏡手術用支援機器加算」です。

ダヴィンチに代表される手術支援ロボットは、初期費用が数億〜約5億円、年間の固定のランニングコストが約1,000万円〜数千万円、これに手術ごとに消耗品などの費用が50万円前後かかるとされています。診療報酬だけでは必要なコストを賄い切れないにもかかわらず、診療内容の充実や泌尿器科・消化器外科・婦人科などの外科医の採用・確保などを目的に、中小規模の急性期病院でも無理をして導入したところが少なくありません。

今回の診療報酬改定前まで、ロボット支援手術は、前立腺がん・腎がん・胃がんの手術を除き、腹腔鏡などを用いた手術と同じ診療報酬点数が設定されており、導入費用とランニングコストが高額なため、その採算性が大きな課題となっていました。

また、ロボット支援手術の主な対象となるがんの手術については、消化器外科医が減少傾向にあることや、手術件数の多い医療機関の方が治療成績の向上が示唆されることなどを理由に国は提供医療機関の集約化の方向性を打ち出していました。2025年8月1日に厚生労働省が公表した「2040年を見据えたがん医療提供体制の均てん化・集約化に関する取りまとめ」には、「高度な手術や新たなモダリティを用いた治療については、提供する医療機関を集約化し、知見・経験を集積することで、がん患者に安全な手術療法を提供することが望まれる」と、「高度な手術や新たなモダリティを用いた治療」の集約化の方針が明記されています。

年間200例以上実施している施設に対して手術料に1万5,000点を加算

2026年度診療報酬改定で「高度急性期病院におけるロボット手術の評価の新設」として新設された「内視鏡手術用支援機器加算」は、高度急性期病院において、ロボット支援手術(内視鏡手術用支援機器を用いた手術)を年間200例以上実施している施設に対して、対象となる特定の悪性腫瘍手術等を行った場合に、手術料に1万5,000点を加算するというものです。

要件は加算対象手術「年間200例以上実施」のほかに、「麻酔科を標榜」「常勤の麻酔科標榜医を配置」「関連学会が行うレジストリにおける手術患者の長期予後情報の収集に参加」「前年の実績(症例数及び平均在院日数)をウェブサイトに掲載」などとなっています。

今回の加算は、年間200例以上の実施症例数を満たせない施設では算定できず、ロボット支援手術を「それなりにやっている」レベルの病院では評価されない設計になっています。無理して導入し、少ない症例数ながらなんとか稼働させてきた病院にとっては非常に手厳しい改定内容のため、今後、ロボット支援手術から泣く泣く撤退するところも出てくるでしょう。

「持続可能な医療のため、手術を支える人的リソースや機器の費用すべてを評価する枠組みが必要だ」と外保連会長

9月7日付の日本経済新聞は「手術支援ロボット、病院は使うほど赤字 操作する医師も不足」と題する記事を掲載、「内視鏡手術用支援機器加算」がロボット手術の不採算問題解消に一定の効果があったものの、依然として不採算が続いている現状を次のように報じています。

「外保連会長で国立がん研究センター中央病院の病院長を務める瀬戸泰之氏は『これだけの改定は異例で、ロボ手術の浸透につながる大きな一歩だ』と歓迎する。それでも病院側の費用を完全には賄えず、ロボットの導入費用や維持コストの課題は残る。瀬戸氏は『高度な医療には高額な医療機器を使うのが当たり前の時代になっている』と指摘する。そのうえで『持続可能な医療のため、手術を支える人的リソースや機器の費用すべてを評価する枠組みが必要だ』と強調する。外保連では28年の改定に向けてワーキンググループを立ち上げ、病院の財政負担を抑える施策を議論する方針だ」。

 日本の外科医療の命運を決する重要な役割を持った診療報酬

同記事はまた、「人手不足が特に深刻なのが、食道から肛門まで扱う消化器外科だ。日本消化器外科学会は2040年には65歳以下の会員数が、25年より4割少ない9,200人になると予想する。想定される患者数を考えれば、5,200人が不足する。現在の医師を年齢別にみると55歳から65歳に集中しており、ロボを扱う医師の高齢化も鮮明だ」とロボット支援手術を担当する外科医自体の不足についても言及、「『良質なロボ手術を受けるには海外に行く必要がある』という未来を避けるため、報酬を適切に見直し、多くの医師が操作技術を磨く機会を確保することが重要になる」と書いています。

ロボット支援手術を行う医療機関の集約化を進めつつ、個々の医療機関の採算性も上げ、同時に担当する外科医の確保・評価も実現する……という手品のようなことが本当にできるのでしょうか?そうした意味では、前回書いた「地域医療体制確保加算2」と「外科医療確保特別加算」、そして今回の「内視鏡手術用支援機器加算」は、これからの日本の外科医療の命運を決する重要な役割を持った診療報酬だといえるでしょう。

2026-10-13

第9回 2026年診療報酬改定で新設された外科医関連加算の意味を考える(前編)

病院の機能再編・集約化を加速する「地域医療体制確保加算2」と「外科医療確保特別加算」

今回は2026年診療報酬改定で新設された外科医関連の報酬のうち、地域の医療機関の機能再編・集約化を加速すると考えられる項目について考えてみます。

「新たな地域医療構想」を見据えて地域の医療機関の機能再編・集約化を進めるための診療報酬としては、本連載(PIVOT医療経営)の「第2回『新たな地域医療構想』を先取りする 2026年度改定」でも解説した、急性期拠点機能を想定した「急性期病院A一般入院料」、「急性期病院B一般入院料」が典型的なものと言えます。しかし、実際に新報酬がスタートしてみると、入院料以外にも医師や医療機器の集約化をじわりじわりと進める仕組みがいくつか盛り込まれていて、今回、厚生労働省がいかに知恵を絞ったかがわかります。

9月12日にさいたま市で開かれた第67回全日本病院学会での特別発言で、厚生労働省医政局長の佐々木 昌弘氏は地域医療構想と診療報酬をリンクさせることについて、「厚生労働省は本気」と話しました。その本気度の表れの1つが、新設された外科医関連の報酬、「地域医療体制確保加算2」と「外科医療確保特別加算」と言えるでしょう。

どちらも地域の基幹病院などにおいて外科医をはじめとする医師確保を含めた体制整備のために新設された点数で、日本消化器外科学会など外科系学会が中心となって20年近く前から国に働きかけ、やっと実現しました。最近になってその取得状況が明らかになってきましたが、新点数を歓迎する声がある一方で、地域の医療機関における一般外科手術への影響が懸念され始めています。

「当該手術年間200例以上実施」「加算を算定する診療科で経験5年以上の常勤医を6人以上配置」などが要件、加算額の30%以上を当該診療科の医師に支給

「地域医療体制確保加算2」(720点)は入院料への加算で、若手医師が減少する外科系診療科(消化器外科、心臓血管外科、小児外科、循環器内科)の医師の勤務環境改善と処遇向上を評価する点数です。そして、「外科医療確保特別加算」は「地域医療体制確保加算2」の届出施設を対象に、胸部(食道)から腹部(胃、腸、肝胆膵)にかけての鏡視下手術を中心に、長時間かつ高難度な手術料への加算(手術料の15%)です。

対象として主に消化器外科領域の長時間かつ高難度手術が約150種類指定されており、「当該手術を年間200例以上実施」「加算を算定する診療科で経験5年以上の常勤医を6人以上配置」などが要件になっています。そして、「当該手術の所定点数の100分の15を加算、当該診療科の医師が行った対象手術件数に応じ、休日手当、時間外手当、深夜手当、当直手当等とは別に、当該加算額の100分の30以上に相当する額を総額とする手当を当該診療科の医師に支給、当該支給額の8割以上を当該診療科に配置されている常勤医師に支給」することも定められています。

つまり、該当する手術を行うたびに医師個人に手当が出来高で還元されるわけで、これまでになかった画期的な仕組みの診療報酬なのです。なおこれらは、いずれも「急性期総合体制加算」または「特定機能病院入院基本料」届出が要件となっており、「急性期拠点機能」の病院の医師確保を想定した加算です。

全国自治体病院協議会調査、「外科医療確保特別加算」は453病院中41病院が算定、17病院が算定予定

2026年9月3日、全国自治体病院協議会は記者会見を開き、「外科医療確保特別加算」と「地域医療体制確保加算2」に関するアンケート結果を報告しました。

アンケートの実施時期は2026年7月17日~8月24日で、対象は会員施設835病院、回答したのは453病院(回答率54%)でした。外科医療確保特別加算は、7月1日時点で、453病院のうち41病院が算定、17病院が今後算定予定と回答しました。

対象診療科の医師への支給率は30%が最も多く、4分の3の病院が30~40%に設定していました。同加算を算定できない施設に「満たせない施設基準」を確認したところ、「長時間かつ高難度な手術を合わせて年間200例以上実施」や「他の医療機関との連携体制」が挙がりました。

同加算取得の前提条件となる「地域医療体制確保加算2」は、7月1日時点で52病院が算定、21病院が算定予定でした。病院の経営形態は、地方公営企業法の「全部適用」が41病院、「一部適用」が6病院、地方独立行政法人が22病院、その他が4病院でした。地方公営企業法の「一部適用」の病院の場合、特殊勤務手当の新設や変更のためには自治体の議会を通し、条例改正の手続きを踏む必要がありますが、7月1日時点で6病院が算定していました。なお、同加算を算定できない病院に満たせない施設基準を尋ねたところ、「交代勤務制またはチーム制を導入していること」が多かったとのことです。

消化器外科学会調査、「地域医療体制確保加算2」「外科医療確保特別加算」の対象施設のうち、「外科医加算」を申請済み・準備中は73.0%

その1カ月前の8月には日本消化器外科学会が、会員施設に「地域医療体制確保加算2」と「外科医療確保特別加算」の取得状況(6月時点)を調査した結果を公表しています。対象は922施設(初回送付人数 1,002人)で、回答したのは368施設でした。回答施設は公立・公的病院(29.2%)と地域中核病院(26.4%)が過半数を占め、大学病院本院も18.9%を占めました。常勤消化器外科医6名以上の回答は75.2%でした。

アンケートの結果は、「両方の加算の対象となり得る」との回答は184件(47.5%)、「少なくとも一方の対象となり得る」との回答は230件(59.4%)でした。

「少なくとも一方の対象となり得る」と回答した230施設のうち、「地域医療体制確保加算2」を算定中・申請済み・準備中は85.7%、「外科医療確保特別加算」は同73.0%に上りました。「外科医療確保特別加算」の外科医への配分割合について、具体的な回答は151件(65.7%)あり、30%が57件(24.8%)で最多、50%が30件(13.0%)、50%以上の配分予定の回答も58件(25.2%)ありました。

「地域・中小規模病院が制度の対象外となることへの懸念」も指摘

アンケートでは、算定施設への患者・手術・人員の集約化についても聞いていますが、「ある程度進めるべきだが、地域医療維持の観点から慎重な対応が必要」が全387回答中264件(68.2%)で最多でした。「積極的に進めるべき」と合わせると、319件(82.4%)が一定程度の集約化を支持していました。

一方で、アンケートではこれらの加算を算定できない施設の声も拾っています。「地域医療体制確保加算2」の対象外・判断不能・制度未把握の157件では、「特定機能病院または急性期総合体制加算の届出なし」81件(51.6%)、「外科医数不足」67件(42.7%)、「チーム制・交代勤務制の構築困難」58件(36.9%)が主要な理由でした。

同じ157件について「外科医療確保特別加算」の対象外の理由を聞いたところ、「高難度・長時間手術が年間200例未満」が98件(62.4%)と最多で、「関連届出なし」70件(44.6%)、「外科医数不足」67件(42.7%)、「チーム制・交代勤務制・勤務間インターバル制の構築困難」50件(31.8%)が続きました。

アンケート結果について日本消化器外科学会は今回の加算新設が「外科医への直接的な処遇改善」、「外科医の負担・専門性の公的評価」などにプラスになったとしつつも、「年間200例基準、外科医数、関連届出、勤務体制などにより、地域・中小規模病院が制度の対象外となることへの懸念が強く示された」と指摘、「高難度予定手術の集約化を進める一方、緊急手術・急性腹症・一般外科診療を担う地域施設の機能を維持する、選択的かつ段階的な体制設計が求められる」と今後の課題も指摘しています。

要件を変更するだけで今回の該当診療科、対象手術以外にも適用させることが可能

日経メディカル等の報道によれば、全国自治体病院協議会のアンケート結果を報告した会長の望月 泉氏は、「外科医療確保特別加算」について「診療科偏在の是正というよりも、病院の集約化を狙っているのではないかと思っている(中略)。(対象診療科の)医師数が4~5人の病院では医師をあと1~2人異動させれば加算できるので、来年度に向けて、集約化の動きが起きてくるのではないかと予想している」と今後の動きを不安視する発言をしています。

外科医不足を背景に、厚生労働省(と中央社会医療協議会)が絶妙に設計した「地域医療体制確保加算2」と「外科医療確保特別加算」は、その要件を変更するだけで今回の該当診療科、対象手術以外にも適用させることが可能です。その意味では、機能再編・集約化に向けての“最終兵器”と言えるかもしれません。(この項続く)

2026-09-28

第8回 「地域医療構想策定ガイドライン」を読み解く(後編)

地域で急性期拠点機能の病院選定が難航した場合は都道府県が主導して決定、大学病院本院等の意見も参考に

今回も、厚生労働省が7月に公表した「地域医療構想策定ガイドライン」について書いてみたいと思います。

新たな地域医療構想の策定に併せて創設される「医療機関機能報告」は、同制度の最大の“肝”と言えますが、ガイドラインにはとりまとめ段階では言われていなかった「新ルール」が盛り込まれました。以前は、1医療機関が複数の機能を報告することもできるとされていましたが、高齢者救急・地域急性期機能と急性期拠点機能については、両機能を一つの医療機関が報告できないことが明示されたのです。地域包括医療病棟や地域包括ケア病棟を持つ急性期病院にとって、この新ルールは影響が大きいと考えられます。

「急性期病院A一般入院料」、「急性期病院B一般入院料」の診療報酬と連動した措置

「医療機関機能報告」とは、地域(二次医療圏等を基礎とした構想区域)ごとに確保すべき医療機関機能として
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・高齢者救急・地域急性期機能
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・在宅医療等連携機能
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・急性期拠点機能
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・専門等機能
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より広域な観点で確保すべき医療機関機能として
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・医育及び広域診療機能(大学病院本院のみ)

──をそれぞれ位置付け、「各医療機関が2040年において担う医療機関機能を決定」し、報告する制度です。初回報告は2026年10月に行い、その後毎年行うことになります。

「とりまとめ」の段階では、医療機関は「複数の機能を報告することもできる」とされていました。しかし、最終的にガイドラインにおいて「高齢者救急・地域急性期機能と急性期拠点機能については、医療資源を多く要する医療や高齢者救急の役割分担を明確化するためのものであり、両機能を一つの医療機関が報告することはしない」と明示されました。

2026年度診療報酬改定では、本連載(PIVOT医療経営)の「第2回『新たな地域医療構想』を先取りする 2026年度改定」でも解説したように、急性期拠点機能を想定した「急性期病院A一般入院料」、「急性期病院B一般入院料」が新設されました。このうち「A」は地域包括医療病棟や地域包括ケア病棟とのケアミックスは認められず(経過措置あり)、「B」も地域包括医療病棟とのケアミックスは認められません(経過措置あり)。つまり、ガイドラインで示された「医療機関機能報告」のルールも診療報酬と連動した措置と言えます。

高齢者救急・地域急性期機能と急性期拠点機能を一つの医療機関が報告できないことについては、すでに全国自治体病院協議会などから批判の声が出ており、この問題、今後さらに揉めそうな予感がします。

急性期拠点機能は地方都市型や大都市型の地域では人口20万人から30万人の単位で一つ

ところで、ガイドラインにおいて急性期拠点機能は、「地域での持続可能な医療従事者の働き方や医療の質の確保に資するよう、手術や救急医療等の医療資源を多く要する症例を集約化した医療提供を行うものである」と定義、「単に手術の実施や救急医療の提供を行うだけでなく、例えば、災害医療への対応、新興感染症への対応、医育(臨床研修・専門研修)、地域の医療機関への人的協力、地域における必要な病床の確保のための積極的な役割など、各地域において政策的に必要な医療等も含め、地域において求められる医療を提供する必要がある」としています。

その上で、「急性期拠点機能は、人口の少ない地域においては、一つ確保・維持することとし、地方都市型の地域や大都市型の地域において、人口20万人から30万人の単位で一つ確保することを基本的な考え方として確保する」と必要数の目安も提示しています。

どの医療機関が急性期拠点機能を担うか関係者間の協議が調わない場合の考え方も提示

どの病院が「急性期拠点機能」を担うかは、各地域でこれから議論、駆け引きが行われるわけですが、協議が難航する際の考え方(議論の収束のさせ方)についてガイドラインは以下のように細かく明示しています。厚労省が各地域の「協議の場」での議論が難航するであろうことを予想していることがうかがえます。

ガイドラインの「II.地域医療構想の策定について」の「4.入院医療」の中の「(2)協議事項」において、区域内において、どの医療機関が急性期拠点機能を担うかについて、関係者間の協議が調わない場合の考え方を以下のように示しています。

▶ 地域において設定すべき数以上の医療機関が急性期拠点機能を担う意向があり、協議が円滑に進まない場合であって、医療機関から求めがあった場合や都道府県が必要と認めた場合等については、都道府県が病院間での意見交換等の場を設定する。

▶ 病院間での協議でも調わない場合においては、都道府県や医師の人的協力を行う大学病院本院も交え、人材確保の見通しを踏まえた上で、協議を行う。

▶ 例えば、大都市、地方都市部において、県立病院と市立病院、あるいは市立病院同士等が近接して所在し、急性期医療の役割分担について協議が必要となるような場合は、県と市の病院事業担当部局が、県の地域医療構想担当部局、医療関係者、人的協力を行う大学病院本院等の協力を得ながら、診療実態や各種補助金・繰入金の活用状況等を踏まえ協議を行い、2040年に向けた連携・再編・集約化の方針の下で、それぞれの病院がどのような役割分担を行っていくか整理する必要がある。

▶ その上で、なお、関係者間の協議が調わない場合には、都道府県において、改めて各医療機関の診療実績や将来の医療需要の見通し等を客観的に勘案し、医療関係者や人的協力を行う大学病院本院等の協力も得ながら、方向性を決定する。

▶ なお、その場合、急性期拠点機能を担わないこととなった病院についても、高齢者救急の対応や地域の初期救急の対応等、地域で必要な役割を果たすことができるよう、高齢者救急の主な受入先とする体制を構築するなど、関係医療機関との協議も踏まえ、具体的な取組を検討していく。

各診療科で“星取り表”を作り、全体としてどちらの病院が急性期拠点機能に相応しいかを判断

端的に言えば、協議がうまく進まない場合は、都道府県が診療実績等を参考にしながら主導して決定に持っていけ、その際、人的協力を行う大学病院本院等の意見も参考せよ、ということになります。

仮に人口30万人の圏域に脳神経外科で同レベルの手術を同程度行っている医療機関が2病院あった場合、どちらに人員を集約したいかの希望を医師派遣元の大学病院に聞き、それを参考に決定することになります。もちろん、脳神経外科だけでは急性期拠点機能は担えませんから、消化器外科、心臓外科等々、各診療科でいわば“星取り表”を作り、全体としてどちらの病院が急性期拠点機能にふさわしいかを判断することになるでしょう。

病院と大学医局とのそれまでの関係や、病院側の医療機器・設備等の充実具合なども勘案されると考えられます。つまり、地域で急性期拠点機能の医療機関を目指す病院は、患者獲得競争だけではなく、医師を派遣してもらっている大学病院との関係を深めることも重要な要素になるわけです。大学病院の意見が重要ということになると、各科教授の権限も相当大きなものになりそうです。

2026-09-14

第7回 「地域医療構想策定ガイドライン」を読み解く(前編)

人口減少と高齢患者急増に対応するため「再編・集約化」の取り組みに最重点

7月3日、厚生労働省がようやく「地域医療構想策定ガイドライン」を公表しました。今年春にも公表される予定でしたが、延びに延びて7月になってしまいました。

2025年12月に成立した改正医療法で定められた「新たな地域医療構想」を各都道府県でどう策定するかについては、2026年3月まで開かれた地域医療構想及び医療計画等に関する検討会で議論が続けられてきました。公表された「地域医療構想策定ガイドライン」は、この検討会の「とりまとめ」を基に、基本的な考え方や具体的な策定の手順を厚労省が整理したものです。

このガイドラインを基に、各都道府県は2027年度上半期頃までに、地域医療構想調整会議において課題の整理や構想区域の点検・見直しなどを行います。そして2028年度までに、各都道府県において急性期拠点機能を担う医療機関の具体的な医療機関名の決定も含めて「地域医療構想」を策定し、「2040年を見据えた医療提供体制について、2035年度を目途に、一定の成果を確保する」としています。

つまり、2029年3月までに新たな地域医療構想を策定し、地域の医療機関の役割分担、棲み分けの方向性を決定、2035年度までに構想を一定程度進め、2040年頃に必要とされる医療提供体制にできるだけ近づけておく、というスケジュールになります。

人口減少と高齢患者急増に対する国、厚労省の非常に強い危機感

新たな地域医療構想については、本連載(PIVOT医療経営)の「第1回 いよいよスタートする『新たな地域医療構想』 知っておきたい7つのポイントとは」で、注目点を概説しました。今回公表されたガイドラインには、基本的な考え方や具体的な策定の手順がまとめられているわけですが、その「考え方」には、人口減少と高齢患者急増に対する国、厚労省の強い危機感が表れています。新たな地域医療構想に対する国の強い意気込みを感じることができますので、概要を紹介しておきましょう。

ガイドラインは冒頭の「I.地域医療構想の考え方」の「1.2040年に向けた医療提供体制について」中で、「背景」について次のように記述しています。
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▶ 我が国においては、今後、人口構造や疾病構造の変化に伴い、医療の需要が量的、質的に大きく変化することが見込まれている。特に、団塊の世代が後期高齢者となる2025年以降、2040年に向けて、高齢者人口の増加に伴い、高齢者救急や在宅医療の需要が増加する一方、急性期医療の需要が多くの地域で減少することが見込まれる。

▶ また、生産年齢人口の減少に伴い、医療機関における医師や看護職員等の担い手の確保がますます困難となることが想定される。

▶ このため、地域において必要な医療提供体制を将来にわたり確保していく観点から、2040年頃の医療需要を見据えつつ、医療機関の役割分担や連携のあり方を整理し、地域全体として適切な医療提供体制を構築することを目的として、地域医療構想を推進する必要がある。
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各地で人口減少が急激に進む中、地域の急性期拠点機能を集約化などによって維持するとともに、急性期拠点機能から“落ちこぼれていく”医療機関を生き長らえさせ、需要が急増する高齢者救急や在宅医療に対応できる医療機関に再編していくことが、地域医療構想の主眼であることが以上の記述からもわかります。

急性期医療については広域での集約化を求める

そのため、ガイドラインの複数の項目において、「再編・集約化」を強く意識した記述があるのが大きな特徴です。

「I.地域医療構想の考え方」の「3.医療機関機能の確保について」の中では、「医療機関の連携・再編・集約化」について、「大都市型の地域においては、医療需要の総量としては大きく減少はしないが、手術等の集学的な医療は相対的に減少し、高齢者救急等の包括期の医療需要や慢性期の需要が相対的に増加していく」ため「それぞれの地域ごとに当該状況に応じた医療機関の連携・再編・集約化の取組が求められる」としています。

加えて、「急性期医療については、構想区域ごとに、緊急性の高い疾患や頻度の高い疾患等に対応できる体制の確保が必要となる。がん手術やその他の高度な外科手術については、症例数が多い医療機関ほど、医療の質が高いことが一般的に知られており、こうした高度な手術等については、地域の医療資源に応じて、構想区域よりも広域な単位で集約して実施することを検討する必要がある」と、広域での機能の集約化の検討も要請しています。

また、「救急車の受入や手術の実施を行う医療機関の集約化や役割分担、夜間に緊急手術を行う医療機関の集約化等も取組として検討が必要である」と急性期拠点機能や急性期病床の集約化以外の連携・再編・集約化の必要性についても言及しています。

市町村には自治体病院にダウンサイジング、再編・集約化求める

さらに、「I.地域医療構想の考え方」の「2.地域医療構想について」の中の「関係者に期待される役割等」でも再編・集約化の必要性を強調しています。

関係者の中で、とくに市町村等に求められる役割について、「病院開設者としては、人口の少ない地域における自治体立病院は、当該地域での唯一の基幹的な医療機関として地域を支えている医療機関でもある一方で、都市部においては、他の医療機関と機能が競合している医療機関もあるなど、地域における役割は様々」とした上で、「自治体立病院の開設者としての観点だけではなく、他の医療機関と同様に、病床数の適正化(ダウンサイズ)や提供する医療内容の見直し等を行い、地域全体の医療提供体制の構築・維持や連携・再編・集約化の取組への協力が求められる」と、自治体病院の経営を優先させるのではなく、周辺医療機関との棲み分けの中でダウンサイジング、再編・集約化に取り組むよう要請しています。

同様に公立・公的病院等に対しても、「県立病院や公的病院等、その設置主体である都道府県、日本赤十字社、済生会、厚生連、国立病院機構、労働者健康安全機構等においても、病床数の適正化(ダウンサイズ)や提供する医療内容の見直し等を行い、地域全体の医療提供体制の構築・維持や連携・再編・集約化の取組への協力が求められる」とダウンサイジング、再編・集約化の検討を迫っています。

こうした流れを受けて、公立病院を管轄する総務省の公立病院改革は、経営改善というよりも、ダウンサイジング、再編・集約化に軸足を移していくでしょう。その結果、人口減少地域では閉院する医療機関もこれまで以上に増えていくと予想されます。

新たに創設される「医療機関機能報告」制度は新たな地域医療構想の最大の“肝”と言えますが、「とりまとめ」までの議論では言われていなかった新たなルールも盛り込まれました。次回はその新ルールについて解説します。

2026-08-24

第6回  地域医療連携推進法人のススメ(後編)

「医療、介護、福祉の切れ目のないサービスを、 将来にわたって安定的に提供」するための「垂直連携型」、がんの放射線治療の共同利用に特化した「水平連携型」が代表的

人口減少、医療人材不足、新型コロナウイルス感染症禍後の患者数減少、物価高、円安、人件費高騰など、医療機関を取り巻く環境が激しさを増す中、地域医療連携推進法人に注目が集まっています。前回は制度の概要について解説しましたが、今回は典型的な活用例を紹介します。

連携推進法人には様々な活用のパターンがあります。代表的なのが地域で高度急性期機能を担う大病院(地域医療支援病院など)が主導して、地域内で患者をシームレスに引き継ぐ仕組みの構築を図る「垂直連携型」です。

そのほかにも、医療機能が同等、あるいは似通った医療機関同士による「水平連携型」のケース、公立・公的病院を中心に再編・統合に向けて連携推進法人を活用するケース、大学病院が地域の複数の医療機関を取り込んで設立するケースなどがあります。

人材交流、診療機能の重点・集約化、地域フォーミュラリー、医療MaaS活用しオンライン診療⋯⋯

「垂直連携型」の代表例は、2018 年に設立された山形県酒田市の地域医療連携推進法人・日本海ヘルスケアネットです。山形県・酒田市病院機構が運営する日本海総合病院(山形県酒田市、590床)を中心に、14の法人等(医療法人、社会福祉法人、医師会、薬剤師会、酒田市等)で構成されています。「地域包括ケアシステムのモデルを構築し、医療、介護、福祉の切れ目のないサービスを、 将来にわたって安定的に提供」することを理念に、日本海ヘルスケアネットは、参加する医療機関・介護施設間で次のような多種多様な連携業務を行っています。

日本海ヘルスケアネットの主な連携業務

1

人材交流/派遣体制の整備/職員の共同研修

2

維持透析機能の重点化、集約化(参加医療機関の一つ、本間病院にシフト)

3

診療機能の重点・集約化

4

地域フォーミュラリー

5

訪問看護ステーションの再編・統合

6

看護管理者ネットワーク会議

7

病床調整/病床稼働状況の情報共有

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地域で財務連結(連携推進法人全体の財務状況を共有)

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医療MaaSを活用したオンライン診療(機構で車両所有・運用)

患者数減少がさらに進めば広域化も視野に

人口減少が急速に進む山形県・庄内地方において、基幹病院である日本海総合病院が中心となって、他の医療機関・介護施設等とともに生き残るために設立された日本海ヘルスケアネットですが、次なる展開も視野に入れています。現状、酒田市を中心に北庄内地域の法人を中心に構成されていますが、人口減少、患者数減少がさらに進めば、北庄内、南庄内(鶴岡市など)というエリアを超えて、山形市の医療機関や、県外、秋田県の医療機関との連携も想定しているとのことです。

今年7月に公表された「地域医療構想策定ガイドライン」では、人口減少地域での構想区域の統合や、都道府県をまたいだ連携についても詳細に記されています。今後、連携推進法人についても広域化が検討すべき重要な課題として浮上してくるでしょう。

民間医療機関主導でがんの放射線治療の共同利用を推進

「垂直連携型」とは異なる、ユニークな連携推進法人制度の活用事例としては、2025年4月に兵庫県の認可を受けた地域医療連携推進法人・神戸圏域放射線治療共同利用連合(神戸市中央区)の取り組みが注目されています。

神戸圏域放射線治療共同利用連合は、民間医療機関が主導して設立されたがんの放射線治療の共同利用に特化した連携推進法人です。圏域内でがん治療に携わる公民合わせて10施設が参加して設立されました。神戸中央病院、神戸海星病院、済生会兵庫県病院、甲南医療センター、神戸陽子線センターなどが参加しています。がん医療に取り組む医療機関同士の「水平連携型」のケースと言えます。

同連合の設立を主導したのは医療法人・神戸低侵襲がん医療センター(通称KMCC、80床)で、元々は神戸大学病院の放射線治療を補完するために2013年に設立された医療機関です。定位放射線治療装置であるサイバーナイフ、強度変調放射線治療(IMRT)専用のトモセラピー、汎用型のトゥルービームを装備し、神戸大学病院をはじめ、県内のがん診療連携拠点病院などからの治療依頼に対応してきました。年間患者数は新規で約900~950人、延べ治療件数は約1,200件とのことです。

地域の経済に及ぼす効果は10年間で約40億円のコスト削減

代表理事でKMCC理事長・病院長の藤井 正彦氏は昨年、医療経営誌(日経ヘルスケア)のインタビューで連携推進法人設立の理由を、「コロナ禍後の患者数の減少、物価高と円安による放射線治療装置の高騰、損益分岐点となる1台当たりの新規治療患者数がこれまでの年間約250人から350~400人にまで上昇してきたこと、地域における放射線治療機器の効率的活用が喫緊の課題になってきたことなどが連携推進法人を設立した主な理由だ。(中略)放射線治療を集約化することで、当院としては検査件数が増え採算性が上がるので、機器の更新が容易になる。また、症例数の増加に伴い治療精度は確実に向上するし、放射線治療専門医や医学物理士の人材育成体制も整えられる」と語っています。

さらに、藤井氏は連携推進法人設立が地域の経済に及ぼす効果について、「年間の延べ治療患者数を1,200人と仮定した試算では、6施設に分散して6台の治療装置を設置して治療するより、KMCCに集約して3台で治療する方が、10年間で約40億円のコスト削減が可能になる。今後の物価高を考えると、削減効果はもっと大きくなると見込まれる」とコメントしています。共同利用は地域の医療機関全体のキャッシュアウトを大幅に削減する効果があるというわけです。

連携推進法人制度を医療機器の共同利用に活かす

がん診療連携拠点病院などが無理して放射線治療機器を導入し、検査件数が伸びず赤字に苦しむ例は少なくありません。そうしたことから、2025年8月に厚生労働省の「がん診療提供体制のあり方に関する検討会」が公表した「2040年を見据えたがん医療提供体制の均てん化・集約化に関するとりまとめ」でも、放射線治療装置の効率的な配置や、高度な放射線療法の集約化が提言されています。神戸圏域放射線治療共同利用連合はこの提言をまさに先取りした取り組みと言えます。

がんの放射線治療装置に限らず、医療機器の価格とそのランニングコストの高騰は続いています。そうした意味からも、連携推進法人制度を医療機器の共同利用で活かす、という神戸圏域放射線治療共同利用連合の事業スキームは、今後全国に広がっていくでしょう。

2026-08-10

第5回  地域医療連携推進法人のススメ(前編)

機能分担、集約化、連携強化を図り難局を乗り切るためのツールとして脚光

2026年度診療報酬改定と、7月に公表された地域医療構想策定ガイドラインなどを契機として、地域における医療機関の役割分担、棲み分けが今後ますます活発化していきそうです。そんな中、診療報酬による経済的なインセンティブや、政策による誘導とは一線を画し、自発的に役割分担や医療連携に取り組もうとする動きも広がっています。そうした動きの1つが地域医療連携推進法人(以下、連携推進法人)です。

これまで63法人が認定、最多は大阪府で9法人、次いで北海道が5法人

連携推進法人とは、地域での医療機能の分担や連携を進める目的で、母体の異なる複数の医療機関や介護事業者などが参加して共同でさまざまな連携業務を行う事業体です。「競争よりも協調」を重視し、「地域医療構想達成のための一つの選択肢」として2015年の医療法改正で制度化が決まり、2017年4月から認定がスタートしました。

法人の種類は一般社団法人で、法制度上のメリットは、病床過剰地域においても、地域医療構想の達成のために必要な病床融通を参加法人間で行うことができることや、一定の要件(連携推進法人が議決権の全てを保有等)の下、介護サービス等を行う事業者に対し出資できること、参加法人に対して資金の貸付が可能(参加法人等に個人立が参加できる場合は不可)な点などです。また、様々な連携推進業務を通じて共同購入や人材交流ができること、参加法人間で経営状況や経営方針などについてざっくばらんに話し合えることなども大きなメリットと言えます。


制度スタートから約9年が経過し、2026年4月1日現在、全国でこれまでに30道府県に63法人が連携推進法人として認定されています。注目されるのは一昨年の2024年度から認定数が急増している点です。2023年度はわずか3法人の認定でしたが、2024年度は13法人、2025年度は8法人が認定されました。都道府県別に見ると、一番多いのは大阪府で9法人、次いで北海道が5法人、静岡県と秋田県が4法人、滋賀県、高知県が3法人となっています。
詳細なリストは厚生労働省のWebサイトを参照下さい。
‍https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000177753.html‍

人口減少、医療人材不足、コロナ禍後の患者数減少に加え、物価高、円安、人件費高騰などが医療機関を直撃

連携推進法人が急増している理由・背景は制度が創設された11年前の医療法改正時よりも、医療機関を取り巻く経営環境が厳しさを増したことが挙げられます。

人口減少、医療人材不足、新型コロナウイルス感染症禍後の患者数減少に加え、物価高、円安、人件費高騰などが医療機関を直撃しています。そんな中、地域の医療機関の多くが、単独ではなく、地域の複数の医療機関、介護施設、介護事業所などとともに、機能の分担、集約化、連携強化を図り、この難局を乗り切ろうと考えるようになり、そのためのツールとして、連携推進法人制度に今まで以上に注目が集まっているのです。

日本の医療を牽引してきたリーダーの医療機関が相次いで連携推進法人設立

連携推進法人の典型例は、地域で高度急性期機能を担う大病院が主導して地域内で患者をシームレスに引き継ぐ仕組みの構築を図る「垂直連携型」のケースです。その他、医療機能が同等、あるいは似通った医療機関同士による「水平連携型」のケース、大学病院が取り組むケースなど様々なパターンが登場しています。

最近注目されるのは、日本の医療を牽引してきたリーダーが経営する医療機関が中心となって連携推進法人を設立するケースが出てきたことです。

一つは、日本病院会会長を務める相澤 孝夫氏が理事長を務める社会医療法人財団慈泉会・相澤病院(長野県松本市、456床)が中心となって、地域の民間病院、診療所、介護老人保健施設、特別養護老人ホームなど6法人を参加法人として2025年10月に設立された「信州松本ヘルスケアネットワーク」です。同連携推進法人は、相澤病院が中心となって参加医療機関とともに、経営コストの削減、医療人材の交流・有効活用に取り組んでいくとしています。

また、今年4月には、元日本医師会長の横倉 義武氏が理事長を務める、社会医療法人弘恵会・ヨコクラ病院(福岡県みやま市、199床)も、地域の医療法人、診療所、社会福祉法人など4法人、1個人で連携推進法人「FUKUOKA有明ヘルスケアネット」を設立しました。同連携推進法人は、医療介護福祉の連携推進や、地域包括ケアシステムの実現を目指すとしています。

地方の民間医療機関が共倒れせず、生き残っていくための最終手段

地域で“強い”急性期病院が1つだけが生き残っても、慢性期・回復期に入った患者を受け入れる後方病院や介護事業所が地域になければ経営は行き詰まります。地方の民間医療機関が共倒れせず、生き残っていくための最終手段として、医療界のリーダーたちも連携推進法人を活用しようと考えたということは、注目に値するでしょう。

2015年に連携推進法人の制度化が決まった当時は、一部の県では連携推進法人の設立に県医師会が猛反対し、設立計画が潰されることもありました。制度誕生の元々の発端が、安倍晋三政権時代の2014年6月に閣議決定された「『日本再興戦略』改訂2014」に記された「非営利ホールディングカンパニー型法人制度」だったため、大規模法人が中小を吸収合併していくイメージが先行し、中小病院や診療所の経営者などに警戒感が芽生えたことなどがその背景にはありました。

しかし、日本病院会会長や、元日本医師会会長までもが取り組むようになったことで、時代は大きく変わったと言えます。次回は、連携推進法人制度の活用事例をいくつか紹介します。(この項続く)

2026-07-27

第4回 これからの地域医療の要、高齢者救急

中小病院が生き残る道は地域包括医療病棟か地域包括ケア病棟

「新たな地域医療構想」を先取りする形で急性期医療を担う病院機能の明確化を推し進めるため、2026年度診療報酬改定では急性期病院の入院基本料が大きく再編されたことについては前々回の第2回で書きました。その関連で今回は、今改定のもう一つの大きなポイントである高齢者救急関連の診療報酬について、地域包括医療病棟を中心に解説します。

救急搬送のうち75歳以上が約50%

救急搬送のうち高齢者の割合が年々増加し、特に75歳以上の患者が救急搬送件数の過半を占める状況となっていることが大きな問題となっています。医療依存度がそれほど高くない高齢患者が高度急性期病院に集中すると、一刻を争うような難易度が高い治療が必要な患者の治療に影響が出て、地域の急性期医療や救急医療の体制が逼迫してしまうからです。

ちなみに、総務省消防庁が2026年1月に発表した「令和7年版救急・救助の現況」によると、2024年の全国の救急自動車による搬送人員数は676万9172人で、うち65歳以上は428万4953人(63.3%、対前年比4.7%増)、75歳以上は336万5377人(49.7%、対前年比6.4%増)でした。

高齢者への対応力を備えた病棟で包括的に対応せよ

こうした高齢者の救急患者の急増、それに伴う急性期病院の機能不全といった構造的な問題を背景に、「高齢の救急搬送患者をどのような病棟で受け入れるのが適切か」についての本格的な議論が行われたのは、2024年度診療報酬改定を議論する中央社会保険医療協議会(中医協)でした。中医協の議論では、軽症〜中等症の高齢救急患者は、必ずしもICUや高度急性期の病棟ではなく、より高齢者への対応力を備えた病棟で包括的に対応し、在宅復帰につなげることが合理的だという結論に至りました。

その結果、2024年度改定では、高齢者救急患者に包括的に対応する10対1看護の地域包括医療病棟が制度化、地域包括医療入院料(1日3,050点)が新設されました。従来からあった13対1看護の地域包括ケア病棟に加えて、看護配置やリハビリテーションをより手厚くして急性期対応力を高めた地域包括医療病棟が、高齢の救急患者を受け入れてリハビリテーション、栄養管理、入退院支援、在宅復帰支援を提供して「包括期入院医療」を担う病棟として新たに位置付けられることになったのです。

また、高次救急病院から状態が安定した高齢者を地域包括ケア病棟や地域包括医療病棟などへ転院搬送 (いわゆる「下り搬送」)することで、地域の医療機関と連携して高齢者を受け持つ仕組みの必要性も高まっていたことから、同改定では、高次救急病院と地域医療機関との平時からの連携に加え、「下り搬送」を評価する「救急患者連携搬送料」(600~1,800点)も新設されました。

地域包括医療病棟と地域包括ケア病棟の診療報酬大幅に見直し

続く、今年の2026年度改定では、基幹病院と高齢者の救急患者を受け入れる地域の病院との役割分担を一層進展させる内容となりました。地域ごとの病院単位の急性期機能を確保するため、2区分の急性期病院一般入院基本料が新設されたことは第2回で書きましたが、高齢者救急に対応する病棟である、地域包括医療病棟と地域包括ケア病棟の診療報酬が大幅に見直されたことも大きなポイントです。

2040年を見据えた「新たな地域医療構想」では、医療機関機能が「急性期拠点機能」「高齢者救急・地域急性期機能」「在宅医療等連携機能」「専門等機能」の4つに分類されます。このうち「高齢者救急・地域急性期機能」を担う病院の評価も行われたわけです。

地域包括医療病棟は細分化、急性期病棟がない病院を評価

特に大きな改革が行われたのは地域包括医療病棟です。2024年度改定で新設された「地域包括医療病棟入院料」は主に高齢者救急の受け入れを促進するために創設されましたが、看護必要度や報酬部分で適切な評価がなされていないとの指摘に応えた形です。

具体的には、地域包括医療病棟は高齢者の中等症までの救急疾患等の幅広い受け入れを推進する観点から、高齢者の生理学的特徴や頻度の高い疾患を踏まえ、平均在院日数、ADL低下割合及び重症度、医療・看護必要度の基準が大きく見直されました。また、急性期病棟の併設状況や医療資源投入量に応じた評価が導入されました。さらに、リハビリテーション・栄養管理・口腔管理の一体的な取り組みを推進する観点から、加算の体系も見直されました(表1)。

着目したいのは「地域包括医療病棟入院料」の区分けです。具体的には、まず急性期病棟の併設の有無で入院料が1と2に分けられました。1は急性期病棟がない病院を対象として、救急患者などの受け入れ負荷を考慮した評価が設定されました(最大3,367点)。2は急性期病棟がある病院になります(最大3316点)。さらに1と2の入院料を手術や緊急入院の有無に応じて3つに細分化しました(表2)。

大きなポイントは、急性期病棟を持っていなかったり、手術をしないけれども緊急入院を受け入れる病院の報酬が高く設定された点です。国は、「急性期拠点機能」の集約化を進めています。中途半端に手術に取り組むより、近隣の拠点病院に手術等の急性期機能を任せ、高齢者の緊急入院への対応に力を入れる病院を高く評価する姿勢が明確に表れた報酬と言えます。

地域包括医療病棟と地域包括ケア病棟に「包括期充実体制加算」新設

一方、「地域包括ケア病棟入院料」における高齢者救急関連項目では、自宅や介護施設等で容態が悪化した患者の受け入れを評価する「在宅患者支援病床初期加算」の対象が緊急入院の患者まで拡大されました。これまで、介護老人保健施設から入院した患者の場合、「救急搬送された患者または救急患者連携搬送料 を算定し他の保険医療機関から搬送された患者」が580点だったものが、「緊急入院の場合」590点に改められました。

また、地域包括医療病棟と地域包括ケア病棟については、新たな加算として、在宅医療・介護保険施設 の後方支援等に一定の体制と実績がある医療機関を評価する「包括期充実体制加算」(80点、14日まで) が新設されました。地域包括医療病棟または地域包括ケア病棟を持つ、主に許可病床数200床未満が対象で、急性期病棟を有する医療機関は算定できません(表1)。

「救急患者連携搬送料」も見直し受け入れ側も評価

なお、2026年度改定では、高次救急病院から状態が安定した高齢者を地域包括ケア病棟や地域包括医療病棟などへ転院搬送を評価する「救急患者連携搬送料」も大きく見直され、3次救急などが⼊院前の救急患者を下り搬送した場合の評価を引き上げるとともに、新たに搬送の受け⼊れ側も評価されることになりました。

具体的には、搬送元の「救急患者連携搬送料1」と、 受け⼊れ側の「救急患者連携搬送料2」に再編されました。 搬送元の「救急患者連携搬送料1」は、院内の医師・看護師・救急救命⼠が搬送に同乗する場合(2400点〜600点)とその他の場合(1000点〜200点)が設定され、それぞれ4段階の評価になります。一方、受け⼊れ側の点数である「救急患者連携搬送料2」は、⾃院の医師・看護師・救急救命⼠が同乗する場合の800点と、その他の200点の2段階になります。

目指したい地域包括医療病棟

高齢患者の急増に伴い、高齢者救急は、地域包括医療病棟、地域包括ケア病棟などが主体となって対応していくという国の方針が明確になっています。地域で「急性期拠点機能」を担う病院は集約化の方向であることから、中小規模の病院が存続していくには、地域包括医療病棟や地域包括ケア病棟に特化した病院に生まれ変わっていくしか生き残る道はないとも言えます。

中でも地域包括医療病棟は、地域包括ケア病棟よりも施設基準は厳しく医療機能を充実させる必要がありますが、その報酬設定は高いため、中小病院は可能な限り目指したいところです。

2026-07-13

第3回 病院病床、大削減時代に突入

予算規模昨年の7.5倍の「病床数適正化緊急支援事業」今年も始まる

昨年に続いて、病床を削減する医療機関を経営的に支援する「病床数適正化緊急支援事業」が今年も行われます。厚生労働省医政局地域医療計画課は6月22日付の事務連絡で、初回の都道府県への申請期限を7月14日とすることを周知しました。昨年同様、2回目以降の申請も行われる予定です。申請予定の医療機関はすでに準備・申請済みかと思われますが、該当医療機関(2025年12月16日~2027年3月31日に病床削減を行う医療機関、事業計画書を提出し2024年12月17日~2025年9月30日に病床削減を行った医療機関等)は、申請忘れをしないようにしたいものです。

削減した病床1床につき410万4,000円交付

昨年の「病床数適正化支援事業」(旧名称)は、地域医療構想が進む中、病床をただ減らすのではなく、経営が厳しい医療機関を支えつつ、実際の医療需要に合わせて病床を調整したいという国の意向が反映された事業です。2024年12月17日の令和6年度補正予算成立後、同日から期日内(2024年度中が原則)までの病床削減を対象とする支援として「医療施設等経営強化緊急支援事業」の1つである「病床数適正化支援事業」がスタートしました。一般病床・療養病床・精神病床の削減に対して、削減病床1床につき410万4,000円交付されるという仕組みです。

昨年の「病床数適正化支援事業」の第1次内示は2025年4月11日に内示されましたが、配分額は約294億円で、対象病床数は7,170床でした。厚労省は当初、計7,000床程度の削減を見込んでいましたが、想定の7.7倍、全国で計5万4,000床に上りました。申請数は約200の公立病院などから8,000床、約1,800の民間病院などから4万6,000床でした。

 2025年6月27日に公表された第2次内示では配分額約168億円、対象病床数は4,108床でした。「一般会計の繰入等がない医療機関」という条件を付けて第1次内示で公立病院を対象外としたことに批判が集まったため、第2次内示では公立病院も対象となりました。昨年実施された令和6年度補正予算による「病床数適正化支援事業」 は最終的に、4月の第1次内示と合わせて削減病床は計1万1,278床、総額462億8,491万円に上りました。

今年から「病床数適正化緊急支援事業」に名称変更、スキームも改変

昨年の名称は「病床数適正化支援事業」でしたが、今年(令和7年度補正予算)は「病床数適正化緊急支援事業」へと変わっています。「緊急」という言葉が付いた理由は、医療需要の変化に迅速に対応し、病床削減を「緊急」に促進する必要があると政府が判断したためです。厚労省のホームページには事業の概要として、「効率的な医療提供体制の確保を図るため、医療需要の変化を踏まえた病床数の適正化を進める医療機関に対し、診療体制の変更等による職員の雇用等の様々な課題に際して生じる負担について支援を行うことを目的とする」と書かれています。支援金額は変わらず、病院(一般・療養・精神)・有床診について削減する病床1床あたり410万4000円(ただし休床病床を削減する場合は半額の205万2000円)の補助が行われます。

今年度の対象医療機関は以下の通りです。
① 2025年12月16日から2027年3月31日までの間に、病床数(一般病床、療養病床及び精神病床の病床数をいい、医療法第30条の4第10項から12項までの規定及び国家戦略特別区域法(平成25年法律第107号)に基づき許可を受けた病床を含む。)の削減を行う医療機関

②「病床数適正化支援事業に係る事業計画(活用意向調査)の提出について」2025年2月21日付厚生労働省医政局地域医療計画課事務連絡)により、事業計画書の提出をもって削減の意向を示しつつ、2024年12月17日から2025年9月30日までに病床の削減を行い、都道府県に対して病床数の変更に関する届出を行った医療機関
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③「地域医療構想の取組の推進に向けた調査について」(2025年8月14日付厚生労働省医政局地域医療計画課事務連絡)において、病床を削減予定と報告を行い、現に病床を削減した医療機関

支援のスキームも変更されました。「病床数適正化支援事業」は厚生労働省の「医療施設等経営強化緊急支援事業」の一事業で、都道府県が給付金を支給し、国がその財源を補助する仕組みでした。それが、2025年に成立した改正医療法で「医療機関が経営の安定を図るために緊急に病床数を削減することを支援する事業」を都道府県が実施できる規定が新たに設けられたことで、今年度(令和7年度補正予算の繰越事業)からは、国が基金を作り、都道府県が事業主体となって行う新たな事業に変更されたのです。制度の法的位置付けがより強化されたと言えるでしょう。

「病床数適正化緊急支援事業」の予算は3,490億円と昨年の7.5倍

昨年の令和6年度補正予算による「病床数適正化支援事業」の実績は総額約463億円でしたが、令和7年度補正予算の「病床数適正化緊急支援事業」は3,490億円と昨年の7.5倍となっています。その背景には、自民・公明・維新の3党合意があります。

自民・公明・維新の3党は2025年5月、社会保障改革に関する合意文書で、2027年4月の「新たな地域医療構想」スタートまでに全国の医療機関の余剰病床約11万床(一般・療養5万6,000床、精神5万3,000床)を削減する方針をまとめており、それを達成するための予算措置と言えます。1床削減で410万円(休床の場合は205万円)ですから、単純計算で8万5,000床分が用意されたことになります。

こうした予算規模を見ても、国の医療政策が病院病床の大削減に舵を切ったことがわかります。病院経営者は、「新たな地域医療構想」を先取りしたと言われる2026年度診療報酬改定の内容を吟味・研究し、2040年に向けての自分の病院の病床数の適正規模や果たすべき役割を、真剣に考える時が来たと言えるでしょう。

2026-06-29

第2回 「新たな地域医療構想」を先取りする 2026年度改定  新設「急性期病院一般入院基本料」が火をつける救急患者争奪戦

“背伸び”をしてきた“なんちゃって急性期病院”は淘汰に向かう可能性大

診療報酬が6月1日から改定されました。本体の改定率が30年ぶりに3%超えの3.09%(その大半は物価高や賃上げ対応に充てられましたが)となり、多くの医療機関はとりあえずひと息付いていることでしょう。

2026年度診療報酬改定は、第1回で取り上げた「新たな地域医療構想」を先取りする形で急性期病院などの入院基本料が大きく再編されました。この急性期病院の入院基本料の再編を機に、各地で救急患者や急性期患者の獲得競争が今まで以上に激化していきそうです。その大きな理由は、新設された「急性期病院一般入院基本料」です。

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急性期病院一般入院基本料新設で地域の病院機能の役割分担の動きが加速

2026年度改定の最大のポイントは、2027年度からスタートする新たな地域医療構想を見据え、急性期を担う病院機能の明確化を推し進める内容となったことです。特に地域ごとの病院単位の急性期機能を確保するため、2区分の急性期病院一般入院基本料(急性期病院A:看護配置7対1、1日1,930点、同B:看護配置10対1、1日1,643点)が新設されたことで、地域の病院機能の役割分担の動きが加速することが予想されます。

2040年を見据えた「新たな地域医療構想」では、医療機関機能が「急性期拠点機能」「高齢者救急・地域急性期機能」「在宅医療等連携機能」「専門等機能」の4つに分類されます。このうち、「急性期拠点機能」を有する病院は「人口20万~30万人ごとに1拠点」が目安とされています。

新設される2区分の急性期病院一般入院基本料のうち、「急性期病院A一般入院料」はまさにそうした「急性期拠点機能」の病院を想定した点数です。また、入院料の加算である「急性期総合体制加算」と「地域医療体制確保加算2」、手術料の加算である「外科医療確保特別加算」も同趣旨の点数と言えます。

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救急搬送件数と全身麻酔手術件数が報酬算定の要件に

「急性期病院A一般入院料」の主な要件は、「救急搬送件数:年2,000件以上」「全身麻酔手術件数:年1,200件以上」などで、入院患者数の10%以上の数の常勤医師の配置が求められます。病院全体として急性期医療への特化が必要で、地域包括医療病棟や地域包括ケア病棟入院料とのケアミックスは認められません(経過措置あり)。

一方、「急性期病院B一般入院料」の主な要件は、第二次救急医療機関または認定救急病院で、以下の4要件のうちいずれかを満たす必要があります。

1.救急搬送件数:年間1,500件以上

2.救急搬送500件以上かつ全身麻酔手術500件以上

3.人口20万人未満地域で二次医療圏内の搬送件数最大かつ1,000件以上

4.離島医療圏で最大の救急搬送件数

なお地域包括医療病棟とのケアミックスは認められず(経過措置あり)、地域包括ケア病棟入院料との併存は可能です。

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従来からある急性期一般入院基本料1〜6は近い将来整理の方向

最大のポイントは、これまでの入院料のように病棟単位ではなく、医療機関の機能に着目した病院単位での入院料となっていることです。さらに、病院内で多様な機能の病棟を併存させるケアミックスにも、経過措置はあるものの制限がかけられています。

ちなみに、厚生労働省の「令和8年度診療報酬改定の概要」資料の中の「急性期における評価の見直し」の項には、「地域で病院が果たしている救急搬送の受入や手術等の急性期機能に着目し、地域ごとの急性期の病院機能を確保する観点から、病院の機能に着目した急性期病院一般入院基本料を新設」と記されており、この文面からも「新たな地域医療構想」の医療機関機能を想定した点数であることがわかります。

この6月から、急性期病院は実績などに応じて「急性期病院一般入院基本料」または従来の「急性期一般入院基本料」を選択しています。ただ、新たな地域医療構想を推し進めていく上で、病院単位での入院料の普及・定着が必要なことから、次期改定以降に急性期一般入院基本料1〜6は整理が進むという見方が専らです。つまり、今後、急性期病院として生き残っていくためには、「急性期病院A一般入院料」か「急性期病院B一般入院料」の選択は必須なのです。

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「急性期病院B一般入院料」は「高齢者救急・地域急性期機能」のイメージ

「急性期病院A一般入院料」は、高度な救急・手術実績を持つ病院向けで、主に都市部における急性期拠点機能を想定していると考えられます。一方、「急性期病院B一般入院料」は、主に人口減少地域などで急性期医療を担う病院を対象としていると考えられます。「新たな地域医療構想」における「高齢者救急・地域急性期機能」に近いイメージと言えるでしょう。

なお、「急性期病院B一般入院料」の基本点数は1,643点(看護10対1)と低めですが、新設の看護・多職種協働加算(255点)を取ることで収益性が向上し、従来の「急性期一般入院料1」(1,874点、看護7対1)を上回って1,898点となる設計になっています。

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「急性期病院A」は都市部で「急性期拠点機能」を担う病院が、
「急性期病院B」は中小含め都市部で「高齢者救急・地域急性期機能」等に対応する病院が

「急性期病院一般入院基本料」の要件からも明らかなように、救急搬送件数が取得のカギとなります。「急性期病院A」「急性期病院B」いずれも多数の救急患者が必要となり、病床過剰地域では病院間で救急患者の争奪戦が繰り広げられることになります。

とくに競争が厳しくなりそうなのが、人口20万人以下の医療圏です。「急性期病院B 一般入院料」の要件の中には「人口20万人未満地域で二次医療圏内の搬送件数最大かつ1,000件以上」があり、この場合、搬送件数最大の1病院のみが対象となるからです。圏域内に同等の病院が2病院以上あり、どこも救急搬送件数が1,000件に達していなければ、争奪戦は避けられません。なお、救急患者数は入院料の施設基準の肝でもある重症度、医療・看護必要度の指数算出のために新たに設けられた「救急患者応需係数」(1床当たり年間救急件数×0.005)にも影響します。そうしたことも競争に拍車をかけるでしょう。

最近の医療メディアの報道を見ていると、「急性期病院A」は都市部で概ね250床以上の中規模・大規模病院で、救急や手術に積極的な「急性期拠点機能」を担う病院が選択することになるようです。一方、「急性期病院B」は200床に満たない病院も含め、都市部で「高齢者救急・地域急性期機能」に対応したり、地方で「急性期拠点機能」を展開したりする病院が選択することになるようです。

「急性期病院一般入院基本料」の新設と、従来からの「急性期一般入院料」の整理によって、これまで“背伸び”をしてきた“なんちゃって急性期病院”は淘汰に向かう可能性が大きいと考えられます。

2026-06-07

第1回 いよいよスタートする「新たな地域医療構想」知っておきたい7つのポイントとは

2040年を見据え自らの医療機関がどのような医療機関機能を担っていけるのか、担っていきたいのかの検討を早急に

「医療法等の一部を改正する法律」が2026年4月以降順次施行されています。「等」と銘打たれているように、複数の医療関連法令をまとめた一括法です。柱は「地域医療構想の見直し」「医師偏在是正に向けた総合的な対策」「医療DXの推進」の3つ。この中で、医療機関にとって最重要政策は「地域医療構想の見直し」を盛り込んだ医療法の改正です。

「地域医療構想の見直し」は、これまでの地域医療構想の目標年であった2025年が到来したことを受け、2040年を目標年とする「新たな地域医療構想」を作るための政策です。85歳以上人口の増加や、各地での人口減少がさらに進む2040年とその先を見据え、すべての地域・世代の人々が適切に医療・介護サービスを受けながら生活できるための医療提供体制の構築を目的としています。

「新たな地域医療構想」の目標年が2040年とされたのは、「団塊ジュニア世代」が全員65歳以上となり、高齢者人口がピークを迎える年と推計されていること、85歳以上の高齢者が大幅に増加し、救急医療や在宅医療、介護との連携といった多様で複雑な医療ニーズが急増すること、日本全体で人口減少が進み、医療従事者を含む働き手の確保が困難になる見込みであることなどが理由です。

2026年度中に「新たな地域医療構想」策定のためのガイドラインが示され、都道府県ではこのガイドラインを基に2026年度に新構想を策定、2027年度以降に順次取り組みが開始される予定となっています。

ということで、今回は「新たな地域医療構想」で知っておきたい7つのポイントをまとめてみました。

1)病床の機能分化だけでなく、外来・在宅、介護との連携、人材確保等の計画も盛り込む

これまでの地域医療構想は主に入院医療(病床数の調整、病床の機能分化など)が主体でしたが、「新たな地域医療構想」では「治す医療」と「治し支える医療」の役割分担の明確化とともに、外来医療・在宅医療、介護との連携、人材確保等の計画も含めた、より包括的で地域完結型の医療・介護体制の構築を目指すことになります。

2)医療法の規定で「地域医療構想」が「医療計画」よりも上位の概念に

地域医療構想はこれまで「医療計画」の記載事項の1つに過ぎませんでした。しかし、今回の法改正で「地域医療構想」が「医療計画」の上位概念に位置付けられることになりました。今後は地域医療構想で地域の医療提供体制全体の将来ビジョン・方向性を定め、それに則って医療機関の分化・連携、病床の機能分化・連携等を進めていくことになります。都道府県が6年ごとに定める「医療計画」は、地域医療構想の具体的な実行計画という位置付けとなり、5疾病・6事業、在宅医療、外来医療、医師確保、医師以外の医療従事者の確保等について、中長期的な計画を立てて進めていくことになります。

3)基準病床数は「新たな地域医療構想」における将来(2040年)の病床必要量の範囲内に

「医療計画」との関係では、「医療計画」における許可病床の上限数(基準病床数)を、「新たな地域医療構想」における将来(2040年)の病床必要量の範囲内に収めることになります。特定の医療機関の増床計画により、地域の総病床数が必要病床数を上回ってしまう場合は、地域医療構想調整会議で了承が得られた場合に限り増床が許可されます。

4)病床機能の区分、「回復期」は「包括期」に名称変更

病床機能の区分については、現行の「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」という4区分は基本変わりませんが、「回復期」という名称は「包括期」に変更されます。これは、今後増加する高齢者救急等の受け皿として、急性期と回復期の両方の機能を併せ持つ病床が必要との考えからです。

「包括期」の機能は、「高齢者救急等を受け入れ、入院早期からの治療とともに、リハビリテーション・栄養・口腔管理の一体的取り組み等を推進し、早期の在宅復帰等を包括的に提供する機能、急性期を経過した患者への在宅復帰に向けた医療やリハビリテーションを提供する機能」と定義されており、従来の「回復期=リハビリテーション」という考え方から大きく変わります。「包括期」は単なる回復期にとどまらず、軽症の急性期患者も対象とし、医療・リハビリ・退院支援を一体的に行う新しい病床機能になります。

5)新たに「医療機関機能報告」の制度が創設

「新たな地域医療構想」では、医療機関機能に着目して地域医療構想を策定・推進することになっており、それに伴って新たに「医療機関機能報告」の制度が創設されます。

「医療機関機能報告」とは、地域(二次医療圏等を基礎とした構想区域)ごとに確保すべき医療機関機能として「高齢者救急・地域急性期機能」「在宅医療等連携機能」「急性期拠点機能」「専門等機能」の4つを。より広域な観点で確保すべき医療機関機能として「医育及び広域診療機能」をそれぞれ位置付け、各医療機関(病床機能報告の対象となる医療機関)が定期的にどのような医療機関機能を有しているかを報告する制度です。なお、1つの医療機関がさまざまな医療機関機能を担うことも想定されており、その場合、報告する医療機関機能は複数となります。具体的な「医療機関機能報告」の報告項目、報告方法等の詳細については、これから公表予定のガイドラインで明らかにされる予定です。

6)人口規模が小さ過ぎる構想区域は合併、大き過ぎる構想区域は分割

「新たな地域医療構想」では、構想区域の考え方も柔軟になります。構想区域については引き続き2次医療圏を基本としつつ、人口規模が20万人未満や100万人以上の構想区域など、医療需要の変化や医療従事者の確保、医療機関の維持、アクセスなどの観点から課題がある場合には、必要に応じて構想区域を見直すことが適当とされました。

7)病床数の削減を支援する事業を都道府県が実施できるように

病床数の削減を支援する事業等が法律で規定され、病床削減への公的支援が明文化されました。都道府県は、医療機関が経営安定のため緊急に病床数を削減する場合に支援事業を実施でき、国が予算の範囲内で費用を補助することができるようになります。

2040年に向けてどのような医療機関機能を担えるのかの検討を

以上述べてきたように、一般病床が主な対象だったこれまでの地域医療構想が、外来・在宅、介護との連携、人材確保等の計画も含めたより包括的な“構想” へとバージョンアップするわけです。地域医療構想は、医療機関の集約化、統合・再編、病床削減を強力に推し進める強力なツールになったと言えるでしょう。

個々の医療機関の経営者(とそこで働く医師)は、自らの医療機関が現状どのような医療機関機能を担っているのか、そして2040年に向けてどのような医療機関機能を担っていけるのか、あるいはいきたいのかを早急に検討し、医療機関機能報告制度の開始に向け、その準備を進めておく必要があります。