

第8回「地域医療構想策定ガイドライン」を読み解く(後編)
地域で急性期拠点機能の病院選定が難航した場合は都道府県が主導して決定、大学病院本院等の意見も参考に
今回も、厚生労働省が7月に公表した「地域医療構想策定ガイドライン」について書いてみたいと思います。
新たな地域医療構想の策定に併せて創設される「医療機関機能報告」は、同制度の最大の“肝”と言えますが、ガイドラインにはとりまとめ段階では言われていなかった「新ルール」が盛り込まれました。以前は、1医療機関が複数の機能を報告することもできるとされていましたが、高齢者救急・地域急性期機能と急性期拠点機能については、両機能を一つの医療機関が報告できないことが明示されたのです。地域包括医療病棟や地域包括ケア病棟を持つ急性期病院にとって、この新ルールは影響が大きいと考えられます。
「急性期病院A一般入院料」、「急性期病院B一般入院料」の診療報酬と連動した措置
「医療機関機能報告」とは、地域(二次医療圏等を基礎とした構想区域)ごとに確保すべき医療機関機能として
・高齢者救急・地域急性期機能
・在宅医療等連携機能
・急性期拠点機能
・専門等機能
より広域な観点で確保すべき医療機関機能として
・医育及び広域診療機能(大学病院本院のみ)
──をそれぞれ位置付け、「各医療機関が2040年において担う医療機関機能を決定」し、報告する制度です。初回報告は2026年10月に行い、その後毎年行うことになります。
「とりまとめ」の段階では、医療機関は「複数の機能を報告することもできる」とされていました。しかし、最終的にガイドラインにおいて「高齢者救急・地域急性期機能と急性期拠点機能については、医療資源を多く要する医療や高齢者救急の役割分担を明確化するためのものであり、両機能を一つの医療機関が報告することはしない」と明示されました。
2026年度診療報酬改定では、本連載(PIVOT医療経営)の「第2回『新たな地域医療構想』を先取りする 2026年度改定」でも解説したように、急性期拠点機能を想定した「急性期病院A一般入院料」、「急性期病院B一般入院料」が新設されました。このうち「A」は地域包括医療病棟や地域包括ケア病棟とのケアミックスは認められず(経過措置あり)、「B」も地域包括医療病棟とのケアミックスは認められません(経過措置あり)。つまり、ガイドラインで示された「医療機関機能報告」のルールも診療報酬と連動した措置と言えます。
高齢者救急・地域急性期機能と急性期拠点機能を一つの医療機関が報告できないことについては、すでに全国自治体病院協議会などから批判の声が出ており、この問題、今後さらに揉めそうな予感がします。
急性期拠点機能は地方都市型や大都市型の地域では人口20万人から30万人の単位で一つ
ところで、ガイドラインにおいて急性期拠点機能は、「地域での持続可能な医療従事者の働き方や医療の質の確保に資するよう、手術や救急医療等の医療資源を多く要する症例を集約化した医療提供を行うものである」と定義、「単に手術の実施や救急医療の提供を行うだけでなく、例えば、災害医療への対応、新興感染症への対応、医育(臨床研修・専門研修)、地域の医療機関への人的協力、地域における必要な病床の確保のための積極的な役割など、各地域において政策的に必要な医療等も含め、地域において求められる医療を提供する必要がある」としています。
その上で、「急性期拠点機能は、人口の少ない地域においては、一つ確保・維持することとし、地方都市型の地域や大都市型の地域において、人口20万人から30万人の単位で一つ確保することを基本的な考え方として確保する」と必要数の目安も提示しています。
どの医療機関が急性期拠点機能を担うか関係者間の協議が調わない場合の考え方も提示
どの病院が「急性期拠点機能」を担うかは、各地域でこれから議論、駆け引きが行われるわけですが、協議が難航する際の考え方(議論の収束のさせ方)についてガイドラインは以下のように細かく明示しています。厚労省が各地域の「協議の場」での議論が難航するであろうことを予想していることがうかがえます。
ガイドラインの「II.地域医療構想の策定について」の「4.入院医療」の中の「(2)協議事項」において、区域内において、どの医療機関が急性期拠点機能を担うかについて、関係者間の協議が調わない場合の考え方を以下のように示しています。
▶ 地域において設定すべき数以上の医療機関が急性期拠点機能を担う意向があり、協議が円滑に進まない場合であって、医療機関から求めがあった場合や都道府県が必要と認めた場合等については、都道府県が病院間での意見交換等の場を設定する。
▶ 病院間での協議でも調わない場合においては、都道府県や医師の人的協力を行う大学病院本院も交え、人材確保の見通しを踏まえた上で、協議を行う。
▶ 例えば、大都市、地方都市部において、県立病院と市立病院、あるいは市立病院同士等が近接して所在し、急性期医療の役割分担について協議が必要となるような場合は、県と市の病院事業担当部局が、県の地域医療構想担当部局、医療関係者、人的協力を行う大学病院本院等の協力を得ながら、診療実態や各種補助金・繰入金の活用状況等を踏まえ協議を行い、2040年に向けた連携・再編・集約化の方針の下で、それぞれの病院がどのような役割分担を行っていくか整理する必要がある。
▶ その上で、なお、関係者間の協議が調わない場合には、都道府県において、改めて各医療機関の診療実績や将来の医療需要の見通し等を客観的に勘案し、医療関係者や人的協力を行う大学病院本院等の協力も得ながら、方向性を決定する。
▶ なお、その場合、急性期拠点機能を担わないこととなった病院についても、高齢者救急の対応や地域の初期救急の対応等、地域で必要な役割を果たすことができるよう、高齢者救急の主な受入先とする体制を構築するなど、関係医療機関との協議も踏まえ、具体的な取組を検討していく。
各診療科で“星取り表”を作り、全体としてどちらの病院が急性期拠点機能に相応しいかを判断
端的に言えば、協議がうまく進まない場合は、都道府県が診療実績等を参考にしながら主導して決定に持っていけ、その際、人的協力を行う大学病院本院等の意見も参考せよ、ということになります。
仮に人口30万人の圏域に脳神経外科で同レベルの手術を同程度行っている医療機関が2病院あった場合、どちらに人員を集約したいかの希望を医師派遣元の大学病院に聞き、それを参考に決定することになります。もちろん、脳神経外科だけでは急性期拠点機能は担えませんから、消化器外科、心臓外科等々、各診療科でいわば“星取り表”を作り、全体としてどちらの病院が急性期拠点機能にふさわしいかを判断することになるでしょう。
病院と大学医局とのそれまでの関係や、病院側の医療機器・設備等の充実具合なども勘案されると考えられます。つまり、地域で急性期拠点機能の医療機関を目指す病院は、患者獲得競争だけではなく、医師を派遣してもらっている大学病院との関係を深めることも重要な要素になるわけです。大学病院の意見が重要ということになると、各科教授の権限も相当大きなものになりそうです。

愛知県生まれ、日経BP社にて日経メディカル、日経ヘルスケア、日経ドラッグインフォメーション等、医療媒体の編集長を歴任。2020年に独立、医療ジャーナリストとして活動。
