連載コラム 選ばれる病院・クリック・高齢者施設ののつくり方
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2026-10-26

第10回 2026年診療報酬改定で新設された外科医関連加算の意味を考える(後編)

ダヴィンチなどのロボット支援手術の症例数を評価する「内視鏡手術用支援機器加算」、200症例未満の施設は採算取れず撤退か?

今回も前回に引き続き、2026年診療報酬改定で新設された外科医関連の報酬のうち、地域の医療機関の機能再編・集約化を加速すると考えられる項目について考えてみます。

前回は、外科系診療科(消化器外科、心臓血管外科、小児外科、循環器内科)の医師の勤務環境改善と処遇向上を評価するために設けられた「地域医療体制確保加算2」と、胸部(食道)から腹部(胃、腸、肝胆膵)にかけての鏡視下手術を中心に長時間かつ高難度な手術料に対して設けられた「外科医療確保特別加算」を取り上げました。どちらもその細かな要件を変更するだけで今回の対象診療科・対象手術以外にも適用することが可能なことから、機能再編・集約化に向けての“最終兵器”になるかもしれないと書きました。

外科医の採用・確保などを目的に、中小規模の急性期病院でも無理をしてダヴィンチを導入したところも

今回取り上げるのは、ダヴィンチなどのロボット支援手術の症例数を評価する「内視鏡手術用支援機器加算」です。

ダヴィンチに代表される手術支援ロボットは、初期費用が数億〜約5億円、年間の固定のランニングコストが約1,000万円〜数千万円、これに手術ごとに消耗品などの費用が50万円前後かかるとされています。診療報酬だけでは必要なコストを賄い切れないにもかかわらず、診療内容の充実や泌尿器科・消化器外科・婦人科などの外科医の採用・確保などを目的に、中小規模の急性期病院でも無理をして導入したところが少なくありません。

今回の診療報酬改定前まで、ロボット支援手術は、前立腺がん・腎がん・胃がんの手術を除き、腹腔鏡などを用いた手術と同じ診療報酬点数が設定されており、導入費用とランニングコストが高額なため、その採算性が大きな課題となっていました。

また、ロボット支援手術の主な対象となるがんの手術については、消化器外科医が減少傾向にあることや、手術件数の多い医療機関の方が治療成績の向上が示唆されることなどを理由に国は提供医療機関の集約化の方向性を打ち出していました。2025年8月1日に厚生労働省が公表した「2040年を見据えたがん医療提供体制の均てん化・集約化に関する取りまとめ」には、「高度な手術や新たなモダリティを用いた治療については、提供する医療機関を集約化し、知見・経験を集積することで、がん患者に安全な手術療法を提供することが望まれる」と、「高度な手術や新たなモダリティを用いた治療」の集約化の方針が明記されています。

年間200例以上実施している施設に対して手術料に1万5,000点を加算

2026年度診療報酬改定で「高度急性期病院におけるロボット手術の評価の新設」として新設された「内視鏡手術用支援機器加算」は、高度急性期病院において、ロボット支援手術(内視鏡手術用支援機器を用いた手術)を年間200例以上実施している施設に対して、対象となる特定の悪性腫瘍手術等を行った場合に、手術料に1万5,000点を加算するというものです。

要件は加算対象手術「年間200例以上実施」のほかに、「麻酔科を標榜」「常勤の麻酔科標榜医を配置」「関連学会が行うレジストリにおける手術患者の長期予後情報の収集に参加」「前年の実績(症例数及び平均在院日数)をウェブサイトに掲載」などとなっています。

今回の加算は、年間200例以上の実施症例数を満たせない施設では算定できず、ロボット支援手術を「それなりにやっている」レベルの病院では評価されない設計になっています。無理して導入し、少ない症例数ながらなんとか稼働させてきた病院にとっては非常に手厳しい改定内容のため、今後、ロボット支援手術から泣く泣く撤退するところも出てくるでしょう。

「持続可能な医療のため、手術を支える人的リソースや機器の費用すべてを評価する枠組みが必要だ」と外保連会長

9月7日付の日本経済新聞は「手術支援ロボット、病院は使うほど赤字 操作する医師も不足」と題する記事を掲載、「内視鏡手術用支援機器加算」がロボット手術の不採算問題解消に一定の効果があったものの、依然として不採算が続いている現状を次のように報じています。

「外保連会長で国立がん研究センター中央病院の病院長を務める瀬戸泰之氏は『これだけの改定は異例で、ロボ手術の浸透につながる大きな一歩だ』と歓迎する。それでも病院側の費用を完全には賄えず、ロボットの導入費用や維持コストの課題は残る。瀬戸氏は『高度な医療には高額な医療機器を使うのが当たり前の時代になっている』と指摘する。そのうえで『持続可能な医療のため、手術を支える人的リソースや機器の費用すべてを評価する枠組みが必要だ』と強調する。外保連では28年の改定に向けてワーキンググループを立ち上げ、病院の財政負担を抑える施策を議論する方針だ」。

 日本の外科医療の命運を決する重要な役割を持った診療報酬

同記事はまた、「人手不足が特に深刻なのが、食道から肛門まで扱う消化器外科だ。日本消化器外科学会は2040年には65歳以下の会員数が、25年より4割少ない9,200人になると予想する。想定される患者数を考えれば、5,200人が不足する。現在の医師を年齢別にみると55歳から65歳に集中しており、ロボを扱う医師の高齢化も鮮明だ」とロボット支援手術を担当する外科医自体の不足についても言及、「『良質なロボ手術を受けるには海外に行く必要がある』という未来を避けるため、報酬を適切に見直し、多くの医師が操作技術を磨く機会を確保することが重要になる」と書いています。

ロボット支援手術を行う医療機関の集約化を進めつつ、個々の医療機関の採算性も上げ、同時に担当する外科医の確保・評価も実現する……という手品のようなことが本当にできるのでしょうか?そうした意味では、前回書いた「地域医療体制確保加算2」と「外科医療確保特別加算」、そして今回の「内視鏡手術用支援機器加算」は、これからの日本の外科医療の命運を決する重要な役割を持った診療報酬だといえるでしょう。

2026-10-13

第9回 2026年診療報酬改定で新設された外科医関連加算の意味を考える(前編)

病院の機能再編・集約化を加速する「地域医療体制確保加算2」と「外科医療確保特別加算」

今回は2026年診療報酬改定で新設された外科医関連の報酬のうち、地域の医療機関の機能再編・集約化を加速すると考えられる項目について考えてみます。

「新たな地域医療構想」を見据えて地域の医療機関の機能再編・集約化を進めるための診療報酬としては、本連載(PIVOT医療経営)の「第2回『新たな地域医療構想』を先取りする 2026年度改定」でも解説した、急性期拠点機能を想定した「急性期病院A一般入院料」、「急性期病院B一般入院料」が典型的なものと言えます。しかし、実際に新報酬がスタートしてみると、入院料以外にも医師や医療機器の集約化をじわりじわりと進める仕組みがいくつか盛り込まれていて、今回、厚生労働省がいかに知恵を絞ったかがわかります。

9月12日にさいたま市で開かれた第67回全日本病院学会での特別発言で、厚生労働省医政局長の佐々木 昌弘氏は地域医療構想と診療報酬をリンクさせることについて、「厚生労働省は本気」と話しました。その本気度の表れの1つが、新設された外科医関連の報酬、「地域医療体制確保加算2」と「外科医療確保特別加算」と言えるでしょう。

どちらも地域の基幹病院などにおいて外科医をはじめとする医師確保を含めた体制整備のために新設された点数で、日本消化器外科学会など外科系学会が中心となって20年近く前から国に働きかけ、やっと実現しました。最近になってその取得状況が明らかになってきましたが、新点数を歓迎する声がある一方で、地域の医療機関における一般外科手術への影響が懸念され始めています。

「当該手術年間200例以上実施」「加算を算定する診療科で経験5年以上の常勤医を6人以上配置」などが要件、加算額の30%以上を当該診療科の医師に支給

「地域医療体制確保加算2」(720点)は入院料への加算で、若手医師が減少する外科系診療科(消化器外科、心臓血管外科、小児外科、循環器内科)の医師の勤務環境改善と処遇向上を評価する点数です。そして、「外科医療確保特別加算」は「地域医療体制確保加算2」の届出施設を対象に、胸部(食道)から腹部(胃、腸、肝胆膵)にかけての鏡視下手術を中心に、長時間かつ高難度な手術料への加算(手術料の15%)です。

対象として主に消化器外科領域の長時間かつ高難度手術が約150種類指定されており、「当該手術を年間200例以上実施」「加算を算定する診療科で経験5年以上の常勤医を6人以上配置」などが要件になっています。そして、「当該手術の所定点数の100分の15を加算、当該診療科の医師が行った対象手術件数に応じ、休日手当、時間外手当、深夜手当、当直手当等とは別に、当該加算額の100分の30以上に相当する額を総額とする手当を当該診療科の医師に支給、当該支給額の8割以上を当該診療科に配置されている常勤医師に支給」することも定められています。

つまり、該当する手術を行うたびに医師個人に手当が出来高で還元されるわけで、これまでになかった画期的な仕組みの診療報酬なのです。なおこれらは、いずれも「急性期総合体制加算」または「特定機能病院入院基本料」届出が要件となっており、「急性期拠点機能」の病院の医師確保を想定した加算です。

全国自治体病院協議会調査、「外科医療確保特別加算」は453病院中41病院が算定、17病院が算定予定

2026年9月3日、全国自治体病院協議会は記者会見を開き、「外科医療確保特別加算」と「地域医療体制確保加算2」に関するアンケート結果を報告しました。

アンケートの実施時期は2026年7月17日~8月24日で、対象は会員施設835病院、回答したのは453病院(回答率54%)でした。外科医療確保特別加算は、7月1日時点で、453病院のうち41病院が算定、17病院が今後算定予定と回答しました。

対象診療科の医師への支給率は30%が最も多く、4分の3の病院が30~40%に設定していました。同加算を算定できない施設に「満たせない施設基準」を確認したところ、「長時間かつ高難度な手術を合わせて年間200例以上実施」や「他の医療機関との連携体制」が挙がりました。

同加算取得の前提条件となる「地域医療体制確保加算2」は、7月1日時点で52病院が算定、21病院が算定予定でした。病院の経営形態は、地方公営企業法の「全部適用」が41病院、「一部適用」が6病院、地方独立行政法人が22病院、その他が4病院でした。地方公営企業法の「一部適用」の病院の場合、特殊勤務手当の新設や変更のためには自治体の議会を通し、条例改正の手続きを踏む必要がありますが、7月1日時点で6病院が算定していました。なお、同加算を算定できない病院に満たせない施設基準を尋ねたところ、「交代勤務制またはチーム制を導入していること」が多かったとのことです。

消化器外科学会調査、「地域医療体制確保加算2」「外科医療確保特別加算」の対象施設のうち、「外科医加算」を申請済み・準備中は73.0%

その1カ月前の8月には日本消化器外科学会が、会員施設に「地域医療体制確保加算2」と「外科医療確保特別加算」の取得状況(6月時点)を調査した結果を公表しています。対象は922施設(初回送付人数 1,002人)で、回答したのは368施設でした。回答施設は公立・公的病院(29.2%)と地域中核病院(26.4%)が過半数を占め、大学病院本院も18.9%を占めました。常勤消化器外科医6名以上の回答は75.2%でした。

アンケートの結果は、「両方の加算の対象となり得る」との回答は184件(47.5%)、「少なくとも一方の対象となり得る」との回答は230件(59.4%)でした。

「少なくとも一方の対象となり得る」と回答した230施設のうち、「地域医療体制確保加算2」を算定中・申請済み・準備中は85.7%、「外科医療確保特別加算」は同73.0%に上りました。「外科医療確保特別加算」の外科医への配分割合について、具体的な回答は151件(65.7%)あり、30%が57件(24.8%)で最多、50%が30件(13.0%)、50%以上の配分予定の回答も58件(25.2%)ありました。

「地域・中小規模病院が制度の対象外となることへの懸念」も指摘

アンケートでは、算定施設への患者・手術・人員の集約化についても聞いていますが、「ある程度進めるべきだが、地域医療維持の観点から慎重な対応が必要」が全387回答中264件(68.2%)で最多でした。「積極的に進めるべき」と合わせると、319件(82.4%)が一定程度の集約化を支持していました。

一方で、アンケートではこれらの加算を算定できない施設の声も拾っています。「地域医療体制確保加算2」の対象外・判断不能・制度未把握の157件では、「特定機能病院または急性期総合体制加算の届出なし」81件(51.6%)、「外科医数不足」67件(42.7%)、「チーム制・交代勤務制の構築困難」58件(36.9%)が主要な理由でした。

同じ157件について「外科医療確保特別加算」の対象外の理由を聞いたところ、「高難度・長時間手術が年間200例未満」が98件(62.4%)と最多で、「関連届出なし」70件(44.6%)、「外科医数不足」67件(42.7%)、「チーム制・交代勤務制・勤務間インターバル制の構築困難」50件(31.8%)が続きました。

アンケート結果について日本消化器外科学会は今回の加算新設が「外科医への直接的な処遇改善」、「外科医の負担・専門性の公的評価」などにプラスになったとしつつも、「年間200例基準、外科医数、関連届出、勤務体制などにより、地域・中小規模病院が制度の対象外となることへの懸念が強く示された」と指摘、「高難度予定手術の集約化を進める一方、緊急手術・急性腹症・一般外科診療を担う地域施設の機能を維持する、選択的かつ段階的な体制設計が求められる」と今後の課題も指摘しています。

要件を変更するだけで今回の該当診療科、対象手術以外にも適用させることが可能

日経メディカル等の報道によれば、全国自治体病院協議会のアンケート結果を報告した会長の望月 泉氏は、「外科医療確保特別加算」について「診療科偏在の是正というよりも、病院の集約化を狙っているのではないかと思っている(中略)。(対象診療科の)医師数が4~5人の病院では医師をあと1~2人異動させれば加算できるので、来年度に向けて、集約化の動きが起きてくるのではないかと予想している」と今後の動きを不安視する発言をしています。

外科医不足を背景に、厚生労働省(と中央社会医療協議会)が絶妙に設計した「地域医療体制確保加算2」と「外科医療確保特別加算」は、その要件を変更するだけで今回の該当診療科、対象手術以外にも適用させることが可能です。その意味では、機能再編・集約化に向けての“最終兵器”と言えるかもしれません。(この項続く)

2026-09-28

第8回 「地域医療構想策定ガイドライン」を読み解く(後編)

地域で急性期拠点機能の病院選定が難航した場合は都道府県が主導して決定、大学病院本院等の意見も参考に

今回も、厚生労働省が7月に公表した「地域医療構想策定ガイドライン」について書いてみたいと思います。

新たな地域医療構想の策定に併せて創設される「医療機関機能報告」は、同制度の最大の“肝”と言えますが、ガイドラインにはとりまとめ段階では言われていなかった「新ルール」が盛り込まれました。以前は、1医療機関が複数の機能を報告することもできるとされていましたが、高齢者救急・地域急性期機能と急性期拠点機能については、両機能を一つの医療機関が報告できないことが明示されたのです。地域包括医療病棟や地域包括ケア病棟を持つ急性期病院にとって、この新ルールは影響が大きいと考えられます。

「急性期病院A一般入院料」、「急性期病院B一般入院料」の診療報酬と連動した措置

「医療機関機能報告」とは、地域(二次医療圏等を基礎とした構想区域)ごとに確保すべき医療機関機能として
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・高齢者救急・地域急性期機能
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・在宅医療等連携機能
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・急性期拠点機能
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・専門等機能
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より広域な観点で確保すべき医療機関機能として
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・医育及び広域診療機能(大学病院本院のみ)

──をそれぞれ位置付け、「各医療機関が2040年において担う医療機関機能を決定」し、報告する制度です。初回報告は2026年10月に行い、その後毎年行うことになります。

「とりまとめ」の段階では、医療機関は「複数の機能を報告することもできる」とされていました。しかし、最終的にガイドラインにおいて「高齢者救急・地域急性期機能と急性期拠点機能については、医療資源を多く要する医療や高齢者救急の役割分担を明確化するためのものであり、両機能を一つの医療機関が報告することはしない」と明示されました。

2026年度診療報酬改定では、本連載(PIVOT医療経営)の「第2回『新たな地域医療構想』を先取りする 2026年度改定」でも解説したように、急性期拠点機能を想定した「急性期病院A一般入院料」、「急性期病院B一般入院料」が新設されました。このうち「A」は地域包括医療病棟や地域包括ケア病棟とのケアミックスは認められず(経過措置あり)、「B」も地域包括医療病棟とのケアミックスは認められません(経過措置あり)。つまり、ガイドラインで示された「医療機関機能報告」のルールも診療報酬と連動した措置と言えます。

高齢者救急・地域急性期機能と急性期拠点機能を一つの医療機関が報告できないことについては、すでに全国自治体病院協議会などから批判の声が出ており、この問題、今後さらに揉めそうな予感がします。

急性期拠点機能は地方都市型や大都市型の地域では人口20万人から30万人の単位で一つ

ところで、ガイドラインにおいて急性期拠点機能は、「地域での持続可能な医療従事者の働き方や医療の質の確保に資するよう、手術や救急医療等の医療資源を多く要する症例を集約化した医療提供を行うものである」と定義、「単に手術の実施や救急医療の提供を行うだけでなく、例えば、災害医療への対応、新興感染症への対応、医育(臨床研修・専門研修)、地域の医療機関への人的協力、地域における必要な病床の確保のための積極的な役割など、各地域において政策的に必要な医療等も含め、地域において求められる医療を提供する必要がある」としています。

その上で、「急性期拠点機能は、人口の少ない地域においては、一つ確保・維持することとし、地方都市型の地域や大都市型の地域において、人口20万人から30万人の単位で一つ確保することを基本的な考え方として確保する」と必要数の目安も提示しています。

どの医療機関が急性期拠点機能を担うか関係者間の協議が調わない場合の考え方も提示

どの病院が「急性期拠点機能」を担うかは、各地域でこれから議論、駆け引きが行われるわけですが、協議が難航する際の考え方(議論の収束のさせ方)についてガイドラインは以下のように細かく明示しています。厚労省が各地域の「協議の場」での議論が難航するであろうことを予想していることがうかがえます。

ガイドラインの「II.地域医療構想の策定について」の「4.入院医療」の中の「(2)協議事項」において、区域内において、どの医療機関が急性期拠点機能を担うかについて、関係者間の協議が調わない場合の考え方を以下のように示しています。

▶ 地域において設定すべき数以上の医療機関が急性期拠点機能を担う意向があり、協議が円滑に進まない場合であって、医療機関から求めがあった場合や都道府県が必要と認めた場合等については、都道府県が病院間での意見交換等の場を設定する。

▶ 病院間での協議でも調わない場合においては、都道府県や医師の人的協力を行う大学病院本院も交え、人材確保の見通しを踏まえた上で、協議を行う。

▶ 例えば、大都市、地方都市部において、県立病院と市立病院、あるいは市立病院同士等が近接して所在し、急性期医療の役割分担について協議が必要となるような場合は、県と市の病院事業担当部局が、県の地域医療構想担当部局、医療関係者、人的協力を行う大学病院本院等の協力を得ながら、診療実態や各種補助金・繰入金の活用状況等を踏まえ協議を行い、2040年に向けた連携・再編・集約化の方針の下で、それぞれの病院がどのような役割分担を行っていくか整理する必要がある。

▶ その上で、なお、関係者間の協議が調わない場合には、都道府県において、改めて各医療機関の診療実績や将来の医療需要の見通し等を客観的に勘案し、医療関係者や人的協力を行う大学病院本院等の協力も得ながら、方向性を決定する。

▶ なお、その場合、急性期拠点機能を担わないこととなった病院についても、高齢者救急の対応や地域の初期救急の対応等、地域で必要な役割を果たすことができるよう、高齢者救急の主な受入先とする体制を構築するなど、関係医療機関との協議も踏まえ、具体的な取組を検討していく。

各診療科で“星取り表”を作り、全体としてどちらの病院が急性期拠点機能に相応しいかを判断

端的に言えば、協議がうまく進まない場合は、都道府県が診療実績等を参考にしながら主導して決定に持っていけ、その際、人的協力を行う大学病院本院等の意見も参考せよ、ということになります。

仮に人口30万人の圏域に脳神経外科で同レベルの手術を同程度行っている医療機関が2病院あった場合、どちらに人員を集約したいかの希望を医師派遣元の大学病院に聞き、それを参考に決定することになります。もちろん、脳神経外科だけでは急性期拠点機能は担えませんから、消化器外科、心臓外科等々、各診療科でいわば“星取り表”を作り、全体としてどちらの病院が急性期拠点機能にふさわしいかを判断することになるでしょう。

病院と大学医局とのそれまでの関係や、病院側の医療機器・設備等の充実具合なども勘案されると考えられます。つまり、地域で急性期拠点機能の医療機関を目指す病院は、患者獲得競争だけではなく、医師を派遣してもらっている大学病院との関係を深めることも重要な要素になるわけです。大学病院の意見が重要ということになると、各科教授の権限も相当大きなものになりそうです。

2026-09-14

第7回 「地域医療構想策定ガイドライン」を読み解く(前編)

人口減少と高齢患者急増に対応するため「再編・集約化」の取り組みに最重点

7月3日、厚生労働省がようやく「地域医療構想策定ガイドライン」を公表しました。今年春にも公表される予定でしたが、延びに延びて7月になってしまいました。

2025年12月に成立した改正医療法で定められた「新たな地域医療構想」を各都道府県でどう策定するかについては、2026年3月まで開かれた地域医療構想及び医療計画等に関する検討会で議論が続けられてきました。公表された「地域医療構想策定ガイドライン」は、この検討会の「とりまとめ」を基に、基本的な考え方や具体的な策定の手順を厚労省が整理したものです。

このガイドラインを基に、各都道府県は2027年度上半期頃までに、地域医療構想調整会議において課題の整理や構想区域の点検・見直しなどを行います。そして2028年度までに、各都道府県において急性期拠点機能を担う医療機関の具体的な医療機関名の決定も含めて「地域医療構想」を策定し、「2040年を見据えた医療提供体制について、2035年度を目途に、一定の成果を確保する」としています。

つまり、2029年3月までに新たな地域医療構想を策定し、地域の医療機関の役割分担、棲み分けの方向性を決定、2035年度までに構想を一定程度進め、2040年頃に必要とされる医療提供体制にできるだけ近づけておく、というスケジュールになります。

人口減少と高齢患者急増に対する国、厚労省の非常に強い危機感

新たな地域医療構想については、本連載(PIVOT医療経営)の「第1回 いよいよスタートする『新たな地域医療構想』 知っておきたい7つのポイントとは」で、注目点を概説しました。今回公表されたガイドラインには、基本的な考え方や具体的な策定の手順がまとめられているわけですが、その「考え方」には、人口減少と高齢患者急増に対する国、厚労省の強い危機感が表れています。新たな地域医療構想に対する国の強い意気込みを感じることができますので、概要を紹介しておきましょう。

ガイドラインは冒頭の「I.地域医療構想の考え方」の「1.2040年に向けた医療提供体制について」中で、「背景」について次のように記述しています。
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▶ 我が国においては、今後、人口構造や疾病構造の変化に伴い、医療の需要が量的、質的に大きく変化することが見込まれている。特に、団塊の世代が後期高齢者となる2025年以降、2040年に向けて、高齢者人口の増加に伴い、高齢者救急や在宅医療の需要が増加する一方、急性期医療の需要が多くの地域で減少することが見込まれる。

▶ また、生産年齢人口の減少に伴い、医療機関における医師や看護職員等の担い手の確保がますます困難となることが想定される。

▶ このため、地域において必要な医療提供体制を将来にわたり確保していく観点から、2040年頃の医療需要を見据えつつ、医療機関の役割分担や連携のあり方を整理し、地域全体として適切な医療提供体制を構築することを目的として、地域医療構想を推進する必要がある。
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各地で人口減少が急激に進む中、地域の急性期拠点機能を集約化などによって維持するとともに、急性期拠点機能から“落ちこぼれていく”医療機関を生き長らえさせ、需要が急増する高齢者救急や在宅医療に対応できる医療機関に再編していくことが、地域医療構想の主眼であることが以上の記述からもわかります。

急性期医療については広域での集約化を求める

そのため、ガイドラインの複数の項目において、「再編・集約化」を強く意識した記述があるのが大きな特徴です。

「I.地域医療構想の考え方」の「3.医療機関機能の確保について」の中では、「医療機関の連携・再編・集約化」について、「大都市型の地域においては、医療需要の総量としては大きく減少はしないが、手術等の集学的な医療は相対的に減少し、高齢者救急等の包括期の医療需要や慢性期の需要が相対的に増加していく」ため「それぞれの地域ごとに当該状況に応じた医療機関の連携・再編・集約化の取組が求められる」としています。

加えて、「急性期医療については、構想区域ごとに、緊急性の高い疾患や頻度の高い疾患等に対応できる体制の確保が必要となる。がん手術やその他の高度な外科手術については、症例数が多い医療機関ほど、医療の質が高いことが一般的に知られており、こうした高度な手術等については、地域の医療資源に応じて、構想区域よりも広域な単位で集約して実施することを検討する必要がある」と、広域での機能の集約化の検討も要請しています。

また、「救急車の受入や手術の実施を行う医療機関の集約化や役割分担、夜間に緊急手術を行う医療機関の集約化等も取組として検討が必要である」と急性期拠点機能や急性期病床の集約化以外の連携・再編・集約化の必要性についても言及しています。

市町村には自治体病院にダウンサイジング、再編・集約化求める

さらに、「I.地域医療構想の考え方」の「2.地域医療構想について」の中の「関係者に期待される役割等」でも再編・集約化の必要性を強調しています。

関係者の中で、とくに市町村等に求められる役割について、「病院開設者としては、人口の少ない地域における自治体立病院は、当該地域での唯一の基幹的な医療機関として地域を支えている医療機関でもある一方で、都市部においては、他の医療機関と機能が競合している医療機関もあるなど、地域における役割は様々」とした上で、「自治体立病院の開設者としての観点だけではなく、他の医療機関と同様に、病床数の適正化(ダウンサイズ)や提供する医療内容の見直し等を行い、地域全体の医療提供体制の構築・維持や連携・再編・集約化の取組への協力が求められる」と、自治体病院の経営を優先させるのではなく、周辺医療機関との棲み分けの中でダウンサイジング、再編・集約化に取り組むよう要請しています。

同様に公立・公的病院等に対しても、「県立病院や公的病院等、その設置主体である都道府県、日本赤十字社、済生会、厚生連、国立病院機構、労働者健康安全機構等においても、病床数の適正化(ダウンサイズ)や提供する医療内容の見直し等を行い、地域全体の医療提供体制の構築・維持や連携・再編・集約化の取組への協力が求められる」とダウンサイジング、再編・集約化の検討を迫っています。

こうした流れを受けて、公立病院を管轄する総務省の公立病院改革は、経営改善というよりも、ダウンサイジング、再編・集約化に軸足を移していくでしょう。その結果、人口減少地域では閉院する医療機関もこれまで以上に増えていくと予想されます。

新たに創設される「医療機関機能報告」制度は新たな地域医療構想の最大の“肝”と言えますが、「とりまとめ」までの議論では言われていなかった新たなルールも盛り込まれました。次回はその新ルールについて解説します。