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第6回 地域医療連携推進法人のススメ(後編)
人口減少、医療人材不足、新型コロナウイルス感染症禍後の患者数減少、物価高、円安、人件費高騰など、医療機関を取り巻く環境が激しさを増す中、地域医療連携推進法人に注目が集まっています。前回は制度の概要について解説しましたが、今回は典型的な活用例を紹介します。
連携推進法人には様々な活用のパターンがあります。代表的なのが地域で高度急性期機能を担う大病院(地域医療支援病院など)が主導して、地域内で患者をシームレスに引き継ぐ仕組みの構築を図る「垂直連携型」です。
そのほかにも、医療機能が同等、あるいは似通った医療機関同士による「水平連携型」のケース、公立・公的病院を中心に再編・統合に向けて連携推進法人を活用するケース、大学病院が地域の複数の医療機関を取り込んで設立するケースなどがあります。
人材交流、診療機能の重点・集約化、地域フォーミュラリー、医療MaaS活用しオンライン診療⋯⋯
「垂直連携型」の代表例は、2018 年に設立された山形県酒田市の地域医療連携推進法人・日本海ヘルスケアネットです。山形県・酒田市病院機構が運営する日本海総合病院(山形県酒田市、590床)を中心に、14の法人等(医療法人、社会福祉法人、医師会、薬剤師会、酒田市等)で構成されています。「地域包括ケアシステムのモデルを構築し、医療、介護、福祉の切れ目のないサービスを、 将来にわたって安定的に提供」することを理念に、日本海ヘルスケアネットは、参加する医療機関・介護施設間で次のような多種多様な連携業務を行っています。
患者数減少がさらに進めば広域化も視野に
人口減少が急速に進む山形県・庄内地方において、基幹病院である日本海総合病院が中心となって、他の医療機関・介護施設等とともに生き残るために設立された日本海ヘルスケアネットですが、次なる展開も視野に入れています。現状、酒田市を中心に北庄内地域の法人を中心に構成されていますが、人口減少、患者数減少がさらに進めば、北庄内、南庄内(鶴岡市など)というエリアを超えて、山形市の医療機関や、県外、秋田県の医療機関との連携も想定しているとのことです。
今年7月に公表された「地域医療構想策定ガイドライン」では、人口減少地域での構想区域の統合や、都道府県をまたいだ連携についても詳細に記されています。今後、連携推進法人についても広域化が検討すべき重要な課題として浮上してくるでしょう。
民間医療機関主導でがんの放射線治療の共同利用を推進
「垂直連携型」とは異なる、ユニークな連携推進法人制度の活用事例としては、2025年4月に兵庫県の認可を受けた地域医療連携推進法人・神戸圏域放射線治療共同利用連合(神戸市中央区)の取り組みが注目されています。
神戸圏域放射線治療共同利用連合は、民間医療機関が主導して設立されたがんの放射線治療の共同利用に特化した連携推進法人です。圏域内でがん治療に携わる公民合わせて10施設が参加して設立されました。神戸中央病院、神戸海星病院、済生会兵庫県病院、甲南医療センター、神戸陽子線センターなどが参加しています。がん医療に取り組む医療機関同士の「水平連携型」のケースと言えます。
同連合の設立を主導したのは医療法人・神戸低侵襲がん医療センター(通称KMCC、80床)で、元々は神戸大学病院の放射線治療を補完するために2013年に設立された医療機関です。定位放射線治療装置であるサイバーナイフ、強度変調放射線治療(IMRT)専用のトモセラピー、汎用型のトゥルービームを装備し、神戸大学病院をはじめ、県内のがん診療連携拠点病院などからの治療依頼に対応してきました。年間患者数は新規で約900~950人、延べ治療件数は約1,200件とのことです。
地域の経済に及ぼす効果は10年間で約40億円のコスト削減
代表理事でKMCC理事長・病院長の藤井 正彦氏は昨年、医療経営誌(日経ヘルスケア)のインタビューで連携推進法人設立の理由を、「コロナ禍後の患者数の減少、物価高と円安による放射線治療装置の高騰、損益分岐点となる1台当たりの新規治療患者数がこれまでの年間約250人から350~400人にまで上昇してきたこと、地域における放射線治療機器の効率的活用が喫緊の課題になってきたことなどが連携推進法人を設立した主な理由だ。(中略)放射線治療を集約化することで、当院としては検査件数が増え採算性が上がるので、機器の更新が容易になる。また、症例数の増加に伴い治療精度は確実に向上するし、放射線治療専門医や医学物理士の人材育成体制も整えられる」と語っています。
さらに、藤井氏は連携推進法人設立が地域の経済に及ぼす効果について、「年間の延べ治療患者数を1,200人と仮定した試算では、6施設に分散して6台の治療装置を設置して治療するより、KMCCに集約して3台で治療する方が、10年間で約40億円のコスト削減が可能になる。今後の物価高を考えると、削減効果はもっと大きくなると見込まれる」とコメントしています。共同利用は地域の医療機関全体のキャッシュアウトを大幅に削減する効果があるというわけです。
連携推進法人制度を医療機器の共同利用に活かす
がん診療連携拠点病院などが無理して放射線治療機器を導入し、検査件数が伸びず赤字に苦しむ例は少なくありません。そうしたことから、2025年8月に厚生労働省の「がん診療提供体制のあり方に関する検討会」が公表した「2040年を見据えたがん医療提供体制の均てん化・集約化に関するとりまとめ」でも、放射線治療装置の効率的な配置や、高度な放射線療法の集約化が提言されています。神戸圏域放射線治療共同利用連合はこの提言をまさに先取りした取り組みと言えます。
がんの放射線治療装置に限らず、医療機器の価格とそのランニングコストの高騰は続いています。そうした意味からも、連携推進法人制度を医療機器の共同利用で活かす、という神戸圏域放射線治療共同利用連合の事業スキームは、今後全国に広がっていくでしょう。
第5回 地域医療連携推進法人のススメ(前編)
2026年度診療報酬改定と、7月に公表された地域医療構想策定ガイドラインなどを契機として、地域における医療機関の役割分担、棲み分けが今後ますます活発化していきそうです。そんな中、診療報酬による経済的なインセンティブや、政策による誘導とは一線を画し、自発的に役割分担や医療連携に取り組もうとする動きも広がっています。そうした動きの1つが地域医療連携推進法人(以下、連携推進法人)です。
これまで63法人が認定、最多は大阪府で9法人、次いで北海道が5法人
連携推進法人とは、地域での医療機能の分担や連携を進める目的で、母体の異なる複数の医療機関や介護事業者などが参加して共同でさまざまな連携業務を行う事業体です。「競争よりも協調」を重視し、「地域医療構想達成のための一つの選択肢」として2015年の医療法改正で制度化が決まり、2017年4月から認定がスタートしました。
法人の種類は一般社団法人で、法制度上のメリットは、病床過剰地域においても、地域医療構想の達成のために必要な病床融通を参加法人間で行うことができることや、一定の要件(連携推進法人が議決権の全てを保有等)の下、介護サービス等を行う事業者に対し出資できること、参加法人に対して資金の貸付が可能(参加法人等に個人立が参加できる場合は不可)な点などです。また、様々な連携推進業務を通じて共同購入や人材交流ができること、参加法人間で経営状況や経営方針などについてざっくばらんに話し合えることなども大きなメリットと言えます。

制度スタートから約9年が経過し、2026年4月1日現在、全国でこれまでに30道府県に63法人が連携推進法人として認定されています。注目されるのは一昨年の2024年度から認定数が急増している点です。2023年度はわずか3法人の認定でしたが、2024年度は13法人、2025年度は8法人が認定されました。都道府県別に見ると、一番多いのは大阪府で9法人、次いで北海道が5法人、静岡県と秋田県が4法人、滋賀県、高知県が3法人となっています。
詳細なリストは厚生労働省のWebサイトを参照下さい。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000177753.html
人口減少、医療人材不足、コロナ禍後の患者数減少に加え、物価高、円安、人件費高騰などが医療機関を直撃
連携推進法人が急増している理由・背景は制度が創設された11年前の医療法改正時よりも、医療機関を取り巻く経営環境が厳しさを増したことが挙げられます。
人口減少、医療人材不足、新型コロナウイルス感染症禍後の患者数減少に加え、物価高、円安、人件費高騰などが医療機関を直撃しています。そんな中、地域の医療機関の多くが、単独ではなく、地域の複数の医療機関、介護施設、介護事業所などとともに、機能の分担、集約化、連携強化を図り、この難局を乗り切ろうと考えるようになり、そのためのツールとして、連携推進法人制度に今まで以上に注目が集まっているのです。
日本の医療を牽引してきたリーダーの医療機関が相次いで連携推進法人設立
連携推進法人の典型例は、地域で高度急性期機能を担う大病院が主導して地域内で患者をシームレスに引き継ぐ仕組みの構築を図る「垂直連携型」のケースです。その他、医療機能が同等、あるいは似通った医療機関同士による「水平連携型」のケース、大学病院が取り組むケースなど様々なパターンが登場しています。
最近注目されるのは、日本の医療を牽引してきたリーダーが経営する医療機関が中心となって連携推進法人を設立するケースが出てきたことです。
一つは、日本病院会会長を務める相澤 孝夫氏が理事長を務める社会医療法人財団慈泉会・相澤病院(長野県松本市、456床)が中心となって、地域の民間病院、診療所、介護老人保健施設、特別養護老人ホームなど6法人を参加法人として2025年10月に設立された「信州松本ヘルスケアネットワーク」です。同連携推進法人は、相澤病院が中心となって参加医療機関とともに、経営コストの削減、医療人材の交流・有効活用に取り組んでいくとしています。
また、今年4月には、元日本医師会長の横倉 義武氏が理事長を務める、社会医療法人弘恵会・ヨコクラ病院(福岡県みやま市、199床)も、地域の医療法人、診療所、社会福祉法人など4法人、1個人で連携推進法人「FUKUOKA有明ヘルスケアネット」を設立しました。同連携推進法人は、医療介護福祉の連携推進や、地域包括ケアシステムの実現を目指すとしています。
地方の民間医療機関が共倒れせず、生き残っていくための最終手段
地域で“強い”急性期病院が1つだけが生き残っても、慢性期・回復期に入った患者を受け入れる後方病院や介護事業所が地域になければ経営は行き詰まります。地方の民間医療機関が共倒れせず、生き残っていくための最終手段として、医療界のリーダーたちも連携推進法人を活用しようと考えたということは、注目に値するでしょう。
2015年に連携推進法人の制度化が決まった当時は、一部の県では連携推進法人の設立に県医師会が猛反対し、設立計画が潰されることもありました。制度誕生の元々の発端が、安倍晋三政権時代の2014年6月に閣議決定された「『日本再興戦略』改訂2014」に記された「非営利ホールディングカンパニー型法人制度」だったため、大規模法人が中小を吸収合併していくイメージが先行し、中小病院や診療所の経営者などに警戒感が芽生えたことなどがその背景にはありました。
しかし、日本病院会会長や、元日本医師会会長までもが取り組むようになったことで、時代は大きく変わったと言えます。次回は、連携推進法人制度の活用事例をいくつか紹介します。(この項続く)
第4回 これからの地域医療の要、高齢者救急
「新たな地域医療構想」を先取りする形で急性期医療を担う病院機能の明確化を推し進めるため、2026年度診療報酬改定では急性期病院の入院基本料が大きく再編されたことについては前々回の第2回で書きました。その関連で今回は、今改定のもう一つの大きなポイントである高齢者救急関連の診療報酬について、地域包括医療病棟を中心に解説します。
救急搬送のうち75歳以上が約50%
救急搬送のうち高齢者の割合が年々増加し、特に75歳以上の患者が救急搬送件数の過半を占める状況となっていることが大きな問題となっています。医療依存度がそれほど高くない高齢患者が高度急性期病院に集中すると、一刻を争うような難易度が高い治療が必要な患者の治療に影響が出て、地域の急性期医療や救急医療の体制が逼迫してしまうからです。
ちなみに、総務省消防庁が2026年1月に発表した「令和7年版救急・救助の現況」によると、2024年の全国の救急自動車による搬送人員数は676万9172人で、うち65歳以上は428万4953人(63.3%、対前年比4.7%増)、75歳以上は336万5377人(49.7%、対前年比6.4%増)でした。
高齢者への対応力を備えた病棟で包括的に対応せよ
こうした高齢者の救急患者の急増、それに伴う急性期病院の機能不全といった構造的な問題を背景に、「高齢の救急搬送患者をどのような病棟で受け入れるのが適切か」についての本格的な議論が行われたのは、2024年度診療報酬改定を議論する中央社会保険医療協議会(中医協)でした。中医協の議論では、軽症〜中等症の高齢救急患者は、必ずしもICUや高度急性期の病棟ではなく、より高齢者への対応力を備えた病棟で包括的に対応し、在宅復帰につなげることが合理的だという結論に至りました。
その結果、2024年度改定では、高齢者救急患者に包括的に対応する10対1看護の地域包括医療病棟が制度化、地域包括医療入院料(1日3,050点)が新設されました。従来からあった13対1看護の地域包括ケア病棟に加えて、看護配置やリハビリテーションをより手厚くして急性期対応力を高めた地域包括医療病棟が、高齢の救急患者を受け入れてリハビリテーション、栄養管理、入退院支援、在宅復帰支援を提供して「包括期入院医療」を担う病棟として新たに位置付けられることになったのです。
また、高次救急病院から状態が安定した高齢者を地域包括ケア病棟や地域包括医療病棟などへ転院搬送 (いわゆる「下り搬送」)することで、地域の医療機関と連携して高齢者を受け持つ仕組みの必要性も高まっていたことから、同改定では、高次救急病院と地域医療機関との平時からの連携に加え、「下り搬送」を評価する「救急患者連携搬送料」(600~1,800点)も新設されました。
地域包括医療病棟と地域包括ケア病棟の診療報酬大幅に見直し
続く、今年の2026年度改定では、基幹病院と高齢者の救急患者を受け入れる地域の病院との役割分担を一層進展させる内容となりました。地域ごとの病院単位の急性期機能を確保するため、2区分の急性期病院一般入院基本料が新設されたことは第2回で書きましたが、高齢者救急に対応する病棟である、地域包括医療病棟と地域包括ケア病棟の診療報酬が大幅に見直されたことも大きなポイントです。
2040年を見据えた「新たな地域医療構想」では、医療機関機能が「急性期拠点機能」「高齢者救急・地域急性期機能」「在宅医療等連携機能」「専門等機能」の4つに分類されます。このうち「高齢者救急・地域急性期機能」を担う病院の評価も行われたわけです。
地域包括医療病棟は細分化、急性期病棟がない病院を評価
特に大きな改革が行われたのは地域包括医療病棟です。2024年度改定で新設された「地域包括医療病棟入院料」は主に高齢者救急の受け入れを促進するために創設されましたが、看護必要度や報酬部分で適切な評価がなされていないとの指摘に応えた形です。
具体的には、地域包括医療病棟は高齢者の中等症までの救急疾患等の幅広い受け入れを推進する観点から、高齢者の生理学的特徴や頻度の高い疾患を踏まえ、平均在院日数、ADL低下割合及び重症度、医療・看護必要度の基準が大きく見直されました。また、急性期病棟の併設状況や医療資源投入量に応じた評価が導入されました。さらに、リハビリテーション・栄養管理・口腔管理の一体的な取り組みを推進する観点から、加算の体系も見直されました(表1)。

着目したいのは「地域包括医療病棟入院料」の区分けです。具体的には、まず急性期病棟の併設の有無で入院料が1と2に分けられました。1は急性期病棟がない病院を対象として、救急患者などの受け入れ負荷を考慮した評価が設定されました(最大3,367点)。2は急性期病棟がある病院になります(最大3316点)。さらに1と2の入院料を手術や緊急入院の有無に応じて3つに細分化しました(表2)。

大きなポイントは、急性期病棟を持っていなかったり、手術をしないけれども緊急入院を受け入れる病院の報酬が高く設定された点です。国は、「急性期拠点機能」の集約化を進めています。中途半端に手術に取り組むより、近隣の拠点病院に手術等の急性期機能を任せ、高齢者の緊急入院への対応に力を入れる病院を高く評価する姿勢が明確に表れた報酬と言えます。
地域包括医療病棟と地域包括ケア病棟に「包括期充実体制加算」新設
一方、「地域包括ケア病棟入院料」における高齢者救急関連項目では、自宅や介護施設等で容態が悪化した患者の受け入れを評価する「在宅患者支援病床初期加算」の対象が緊急入院の患者まで拡大されました。これまで、介護老人保健施設から入院した患者の場合、「救急搬送された患者または救急患者連携搬送料 を算定し他の保険医療機関から搬送された患者」が580点だったものが、「緊急入院の場合」590点に改められました。
また、地域包括医療病棟と地域包括ケア病棟については、新たな加算として、在宅医療・介護保険施設 の後方支援等に一定の体制と実績がある医療機関を評価する「包括期充実体制加算」(80点、14日まで) が新設されました。地域包括医療病棟または地域包括ケア病棟を持つ、主に許可病床数200床未満が対象で、急性期病棟を有する医療機関は算定できません(表1)。
「救急患者連携搬送料」も見直し受け入れ側も評価
なお、2026年度改定では、高次救急病院から状態が安定した高齢者を地域包括ケア病棟や地域包括医療病棟などへ転院搬送を評価する「救急患者連携搬送料」も大きく見直され、3次救急などが⼊院前の救急患者を下り搬送した場合の評価を引き上げるとともに、新たに搬送の受け⼊れ側も評価されることになりました。
具体的には、搬送元の「救急患者連携搬送料1」と、 受け⼊れ側の「救急患者連携搬送料2」に再編されました。 搬送元の「救急患者連携搬送料1」は、院内の医師・看護師・救急救命⼠が搬送に同乗する場合(2400点〜600点)とその他の場合(1000点〜200点)が設定され、それぞれ4段階の評価になります。一方、受け⼊れ側の点数である「救急患者連携搬送料2」は、⾃院の医師・看護師・救急救命⼠が同乗する場合の800点と、その他の200点の2段階になります。
目指したい地域包括医療病棟
高齢患者の急増に伴い、高齢者救急は、地域包括医療病棟、地域包括ケア病棟などが主体となって対応していくという国の方針が明確になっています。地域で「急性期拠点機能」を担う病院は集約化の方向であることから、中小規模の病院が存続していくには、地域包括医療病棟や地域包括ケア病棟に特化した病院に生まれ変わっていくしか生き残る道はないとも言えます。
中でも地域包括医療病棟は、地域包括ケア病棟よりも施設基準は厳しく医療機能を充実させる必要がありますが、その報酬設定は高いため、中小病院は可能な限り目指したいところです。
第3回 病院病床、大削減時代に突入
昨年に続いて、病床を削減する医療機関を経営的に支援する「病床数適正化緊急支援事業」が今年も行われます。厚生労働省医政局地域医療計画課は6月22日付の事務連絡で、初回の都道府県への申請期限を7月14日とすることを周知しました。昨年同様、2回目以降の申請も行われる予定です。申請予定の医療機関はすでに準備・申請済みかと思われますが、該当医療機関(2025年12月16日~2027年3月31日に病床削減を行う医療機関、事業計画書を提出し2024年12月17日~2025年9月30日に病床削減を行った医療機関等)は、申請忘れをしないようにしたいものです。
削減した病床1床につき410万4,000円交付
昨年の「病床数適正化支援事業」(旧名称)は、地域医療構想が進む中、病床をただ減らすのではなく、経営が厳しい医療機関を支えつつ、実際の医療需要に合わせて病床を調整したいという国の意向が反映された事業です。2024年12月17日の令和6年度補正予算成立後、同日から期日内(2024年度中が原則)までの病床削減を対象とする支援として「医療施設等経営強化緊急支援事業」の1つである「病床数適正化支援事業」がスタートしました。一般病床・療養病床・精神病床の削減に対して、削減病床1床につき410万4,000円交付されるという仕組みです。
昨年の「病床数適正化支援事業」の第1次内示は2025年4月11日に内示されましたが、配分額は約294億円で、対象病床数は7,170床でした。厚労省は当初、計7,000床程度の削減を見込んでいましたが、想定の7.7倍、全国で計5万4,000床に上りました。申請数は約200の公立病院などから8,000床、約1,800の民間病院などから4万6,000床でした。
2025年6月27日に公表された第2次内示では配分額約168億円、対象病床数は4,108床でした。「一般会計の繰入等がない医療機関」という条件を付けて第1次内示で公立病院を対象外としたことに批判が集まったため、第2次内示では公立病院も対象となりました。昨年実施された令和6年度補正予算による「病床数適正化支援事業」 は最終的に、4月の第1次内示と合わせて削減病床は計1万1,278床、総額462億8,491万円に上りました。
今年から「病床数適正化緊急支援事業」に名称変更、スキームも改変
昨年の名称は「病床数適正化支援事業」でしたが、今年(令和7年度補正予算)は「病床数適正化緊急支援事業」へと変わっています。「緊急」という言葉が付いた理由は、医療需要の変化に迅速に対応し、病床削減を「緊急」に促進する必要があると政府が判断したためです。厚労省のホームページには事業の概要として、「効率的な医療提供体制の確保を図るため、医療需要の変化を踏まえた病床数の適正化を進める医療機関に対し、診療体制の変更等による職員の雇用等の様々な課題に際して生じる負担について支援を行うことを目的とする」と書かれています。支援金額は変わらず、病院(一般・療養・精神)・有床診について削減する病床1床あたり410万4000円(ただし休床病床を削減する場合は半額の205万2000円)の補助が行われます。
今年度の対象医療機関は以下の通りです。
① 2025年12月16日から2027年3月31日までの間に、病床数(一般病床、療養病床及び精神病床の病床数をいい、医療法第30条の4第10項から12項までの規定及び国家戦略特別区域法(平成25年法律第107号)に基づき許可を受けた病床を含む。)の削減を行う医療機関
②「病床数適正化支援事業に係る事業計画(活用意向調査)の提出について」2025年2月21日付厚生労働省医政局地域医療計画課事務連絡)により、事業計画書の提出をもって削減の意向を示しつつ、2024年12月17日から2025年9月30日までに病床の削減を行い、都道府県に対して病床数の変更に関する届出を行った医療機関
③「地域医療構想の取組の推進に向けた調査について」(2025年8月14日付厚生労働省医政局地域医療計画課事務連絡)において、病床を削減予定と報告を行い、現に病床を削減した医療機関
支援のスキームも変更されました。「病床数適正化支援事業」は厚生労働省の「医療施設等経営強化緊急支援事業」の一事業で、都道府県が給付金を支給し、国がその財源を補助する仕組みでした。それが、2025年に成立した改正医療法で「医療機関が経営の安定を図るために緊急に病床数を削減することを支援する事業」を都道府県が実施できる規定が新たに設けられたことで、今年度(令和7年度補正予算の繰越事業)からは、国が基金を作り、都道府県が事業主体となって行う新たな事業に変更されたのです。制度の法的位置付けがより強化されたと言えるでしょう。
「病床数適正化緊急支援事業」の予算は3,490億円と昨年の7.5倍
昨年の令和6年度補正予算による「病床数適正化支援事業」の実績は総額約463億円でしたが、令和7年度補正予算の「病床数適正化緊急支援事業」は3,490億円と昨年の7.5倍となっています。その背景には、自民・公明・維新の3党合意があります。
自民・公明・維新の3党は2025年5月、社会保障改革に関する合意文書で、2027年4月の「新たな地域医療構想」スタートまでに全国の医療機関の余剰病床約11万床(一般・療養5万6,000床、精神5万3,000床)を削減する方針をまとめており、それを達成するための予算措置と言えます。1床削減で410万円(休床の場合は205万円)ですから、単純計算で8万5,000床分が用意されたことになります。
こうした予算規模を見ても、国の医療政策が病院病床の大削減に舵を切ったことがわかります。病院経営者は、「新たな地域医療構想」を先取りしたと言われる2026年度診療報酬改定の内容を吟味・研究し、2040年に向けての自分の病院の病床数の適正規模や果たすべき役割を、真剣に考える時が来たと言えるでしょう。
第2回 「新たな地域医療構想」を先取りする 2026年度改定 新設「急性期病院一般入院基本料」が火をつける救急患者争奪戦
診療報酬が6月1日から改定されました。本体の改定率が30年ぶりに3%超えの3.09%(その大半は物価高や賃上げ対応に充てられましたが)となり、多くの医療機関はとりあえずひと息付いていることでしょう。
2026年度診療報酬改定は、第1回で取り上げた「新たな地域医療構想」を先取りする形で急性期病院などの入院基本料が大きく再編されました。この急性期病院の入院基本料の再編を機に、各地で救急患者や急性期患者の獲得競争が今まで以上に激化していきそうです。その大きな理由は、新設された「急性期病院一般入院基本料」です。
急性期病院一般入院基本料新設で地域の病院機能の役割分担の動きが加速
2026年度改定の最大のポイントは、2027年度からスタートする新たな地域医療構想を見据え、急性期を担う病院機能の明確化を推し進める内容となったことです。特に地域ごとの病院単位の急性期機能を確保するため、2区分の急性期病院一般入院基本料(急性期病院A:看護配置7対1、1日1,930点、同B:看護配置10対1、1日1,643点)が新設されたことで、地域の病院機能の役割分担の動きが加速することが予想されます。
2040年を見据えた「新たな地域医療構想」では、医療機関機能が「急性期拠点機能」「高齢者救急・地域急性期機能」「在宅医療等連携機能」「専門等機能」の4つに分類されます。このうち、「急性期拠点機能」を有する病院は「人口20万~30万人ごとに1拠点」が目安とされています。
新設される2区分の急性期病院一般入院基本料のうち、「急性期病院A一般入院料」はまさにそうした「急性期拠点機能」の病院を想定した点数です。また、入院料の加算である「急性期総合体制加算」と「地域医療体制確保加算2」、手術料の加算である「外科医療確保特別加算」も同趣旨の点数と言えます。
救急搬送件数と全身麻酔手術件数が報酬算定の要件に
「急性期病院A一般入院料」の主な要件は、「救急搬送件数:年2,000件以上」「全身麻酔手術件数:年1,200件以上」などで、入院患者数の10%以上の数の常勤医師の配置が求められます。病院全体として急性期医療への特化が必要で、地域包括医療病棟や地域包括ケア病棟入院料とのケアミックスは認められません(経過措置あり)。
一方、「急性期病院B一般入院料」の主な要件は、第二次救急医療機関または認定救急病院で、以下の4要件のうちいずれかを満たす必要があります。
1.救急搬送件数:年間1,500件以上
2.救急搬送500件以上かつ全身麻酔手術500件以上
3.人口20万人未満地域で二次医療圏内の搬送件数最大かつ1,000件以上
4.離島医療圏で最大の救急搬送件数
なお地域包括医療病棟とのケアミックスは認められず(経過措置あり)、地域包括ケア病棟入院料との併存は可能です。
従来からある急性期一般入院基本料1〜6は近い将来整理の方向
最大のポイントは、これまでの入院料のように病棟単位ではなく、医療機関の機能に着目した病院単位での入院料となっていることです。さらに、病院内で多様な機能の病棟を併存させるケアミックスにも、経過措置はあるものの制限がかけられています。
ちなみに、厚生労働省の「令和8年度診療報酬改定の概要」資料の中の「急性期における評価の見直し」の項には、「地域で病院が果たしている救急搬送の受入や手術等の急性期機能に着目し、地域ごとの急性期の病院機能を確保する観点から、病院の機能に着目した急性期病院一般入院基本料を新設」と記されており、この文面からも「新たな地域医療構想」の医療機関機能を想定した点数であることがわかります。
この6月から、急性期病院は実績などに応じて「急性期病院一般入院基本料」または従来の「急性期一般入院基本料」を選択しています。ただ、新たな地域医療構想を推し進めていく上で、病院単位での入院料の普及・定着が必要なことから、次期改定以降に急性期一般入院基本料1〜6は整理が進むという見方が専らです。つまり、今後、急性期病院として生き残っていくためには、「急性期病院A一般入院料」か「急性期病院B一般入院料」の選択は必須なのです。
「急性期病院B一般入院料」は「高齢者救急・地域急性期機能」のイメージ
「急性期病院A一般入院料」は、高度な救急・手術実績を持つ病院向けで、主に都市部における急性期拠点機能を想定していると考えられます。一方、「急性期病院B一般入院料」は、主に人口減少地域などで急性期医療を担う病院を対象としていると考えられます。「新たな地域医療構想」における「高齢者救急・地域急性期機能」に近いイメージと言えるでしょう。
なお、「急性期病院B一般入院料」の基本点数は1,643点(看護10対1)と低めですが、新設の看護・多職種協働加算(255点)を取ることで収益性が向上し、従来の「急性期一般入院料1」(1,874点、看護7対1)を上回って1,898点となる設計になっています。
「急性期病院A」は都市部で「急性期拠点機能」を担う病院が、
「急性期病院B」は中小含め都市部で「高齢者救急・地域急性期機能」等に対応する病院が
「急性期病院一般入院基本料」の要件からも明らかなように、救急搬送件数が取得のカギとなります。「急性期病院A」「急性期病院B」いずれも多数の救急患者が必要となり、病床過剰地域では病院間で救急患者の争奪戦が繰り広げられることになります。
とくに競争が厳しくなりそうなのが、人口20万人以下の医療圏です。「急性期病院B 一般入院料」の要件の中には「人口20万人未満地域で二次医療圏内の搬送件数最大かつ1,000件以上」があり、この場合、搬送件数最大の1病院のみが対象となるからです。圏域内に同等の病院が2病院以上あり、どこも救急搬送件数が1,000件に達していなければ、争奪戦は避けられません。なお、救急患者数は入院料の施設基準の肝でもある重症度、医療・看護必要度の指数算出のために新たに設けられた「救急患者応需係数」(1床当たり年間救急件数×0.005)にも影響します。そうしたことも競争に拍車をかけるでしょう。
最近の医療メディアの報道を見ていると、「急性期病院A」は都市部で概ね250床以上の中規模・大規模病院で、救急や手術に積極的な「急性期拠点機能」を担う病院が選択することになるようです。一方、「急性期病院B」は200床に満たない病院も含め、都市部で「高齢者救急・地域急性期機能」に対応したり、地方で「急性期拠点機能」を展開したりする病院が選択することになるようです。
「急性期病院一般入院基本料」の新設と、従来からの「急性期一般入院料」の整理によって、これまで“背伸び”をしてきた“なんちゃって急性期病院”は淘汰に向かう可能性が大きいと考えられます。






