2026-10-26

第10回 2026年診療報酬改定で新設された外科医関連加算の意味を考える(後編)

ダヴィンチなどのロボット支援手術の症例数を評価する「内視鏡手術用支援機器加算」、200症例未満の施設は採算取れず撤退か?

今回も前回に引き続き、2026年診療報酬改定で新設された外科医関連の報酬のうち、地域の医療機関の機能再編・集約化を加速すると考えられる項目について考えてみます。

前回は、外科系診療科(消化器外科、心臓血管外科、小児外科、循環器内科)の医師の勤務環境改善と処遇向上を評価するために設けられた「地域医療体制確保加算2」と、胸部(食道)から腹部(胃、腸、肝胆膵)にかけての鏡視下手術を中心に長時間かつ高難度な手術料に対して設けられた「外科医療確保特別加算」を取り上げました。どちらもその細かな要件を変更するだけで今回の対象診療科・対象手術以外にも適用することが可能なことから、機能再編・集約化に向けての“最終兵器”になるかもしれないと書きました。

外科医の採用・確保などを目的に、中小規模の急性期病院でも無理をしてダヴィンチを導入したところも

今回取り上げるのは、ダヴィンチなどのロボット支援手術の症例数を評価する「内視鏡手術用支援機器加算」です。

ダヴィンチに代表される手術支援ロボットは、初期費用が数億〜約5億円、年間の固定のランニングコストが約1,000万円〜数千万円、これに手術ごとに消耗品などの費用が50万円前後かかるとされています。診療報酬だけでは必要なコストを賄い切れないにもかかわらず、診療内容の充実や泌尿器科・消化器外科・婦人科などの外科医の採用・確保などを目的に、中小規模の急性期病院でも無理をして導入したところが少なくありません。

今回の診療報酬改定前まで、ロボット支援手術は、前立腺がん・腎がん・胃がんの手術を除き、腹腔鏡などを用いた手術と同じ診療報酬点数が設定されており、導入費用とランニングコストが高額なため、その採算性が大きな課題となっていました。

また、ロボット支援手術の主な対象となるがんの手術については、消化器外科医が減少傾向にあることや、手術件数の多い医療機関の方が治療成績の向上が示唆されることなどを理由に国は提供医療機関の集約化の方向性を打ち出していました。2025年8月1日に厚生労働省が公表した「2040年を見据えたがん医療提供体制の均てん化・集約化に関する取りまとめ」には、「高度な手術や新たなモダリティを用いた治療については、提供する医療機関を集約化し、知見・経験を集積することで、がん患者に安全な手術療法を提供することが望まれる」と、「高度な手術や新たなモダリティを用いた治療」の集約化の方針が明記されています。

年間200例以上実施している施設に対して手術料に1万5,000点を加算

2026年度診療報酬改定で「高度急性期病院におけるロボット手術の評価の新設」として新設された「内視鏡手術用支援機器加算」は、高度急性期病院において、ロボット支援手術(内視鏡手術用支援機器を用いた手術)を年間200例以上実施している施設に対して、対象となる特定の悪性腫瘍手術等を行った場合に、手術料に1万5,000点を加算するというものです。

要件は加算対象手術「年間200例以上実施」のほかに、「麻酔科を標榜」「常勤の麻酔科標榜医を配置」「関連学会が行うレジストリにおける手術患者の長期予後情報の収集に参加」「前年の実績(症例数及び平均在院日数)をウェブサイトに掲載」などとなっています。

今回の加算は、年間200例以上の実施症例数を満たせない施設では算定できず、ロボット支援手術を「それなりにやっている」レベルの病院では評価されない設計になっています。無理して導入し、少ない症例数ながらなんとか稼働させてきた病院にとっては非常に手厳しい改定内容のため、今後、ロボット支援手術から泣く泣く撤退するところも出てくるでしょう。

「持続可能な医療のため、手術を支える人的リソースや機器の費用すべてを評価する枠組みが必要だ」と外保連会長

9月7日付の日本経済新聞は「手術支援ロボット、病院は使うほど赤字 操作する医師も不足」と題する記事を掲載、「内視鏡手術用支援機器加算」がロボット手術の不採算問題解消に一定の効果があったものの、依然として不採算が続いている現状を次のように報じています。

「外保連会長で国立がん研究センター中央病院の病院長を務める瀬戸泰之氏は『これだけの改定は異例で、ロボ手術の浸透につながる大きな一歩だ』と歓迎する。それでも病院側の費用を完全には賄えず、ロボットの導入費用や維持コストの課題は残る。瀬戸氏は『高度な医療には高額な医療機器を使うのが当たり前の時代になっている』と指摘する。そのうえで『持続可能な医療のため、手術を支える人的リソースや機器の費用すべてを評価する枠組みが必要だ』と強調する。外保連では28年の改定に向けてワーキンググループを立ち上げ、病院の財政負担を抑える施策を議論する方針だ」。

 日本の外科医療の命運を決する重要な役割を持った診療報酬

同記事はまた、「人手不足が特に深刻なのが、食道から肛門まで扱う消化器外科だ。日本消化器外科学会は2040年には65歳以下の会員数が、25年より4割少ない9,200人になると予想する。想定される患者数を考えれば、5,200人が不足する。現在の医師を年齢別にみると55歳から65歳に集中しており、ロボを扱う医師の高齢化も鮮明だ」とロボット支援手術を担当する外科医自体の不足についても言及、「『良質なロボ手術を受けるには海外に行く必要がある』という未来を避けるため、報酬を適切に見直し、多くの医師が操作技術を磨く機会を確保することが重要になる」と書いています。

ロボット支援手術を行う医療機関の集約化を進めつつ、個々の医療機関の採算性も上げ、同時に担当する外科医の確保・評価も実現する……という手品のようなことが本当にできるのでしょうか?そうした意味では、前回書いた「地域医療体制確保加算2」と「外科医療確保特別加算」、そして今回の「内視鏡手術用支援機器加算」は、これからの日本の外科医療の命運を決する重要な役割を持った診療報酬だといえるでしょう。

千田 敏之
(
せんだとしゆき
)
医療ジャーナリスト

愛知県生まれ、日経BP社にて日経メディカル、日経ヘルスケア、日経ドラッグインフォメーション等、医療媒体の編集長を歴任。2020年に独立、医療ジャーナリストとして活動。

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