

第2回 美濃市立美濃病院 院長 阪本 研一氏
理念は「地域から選ばれる満足度の高い医療サービスの提供」 病棟運営から医師の働き方まで、効率性を追求した経営を迅速性を持って実行

岐阜県のほぼ中央、美濃市に位置する美濃市立美濃病院は、入院部門の重点を包括期に置くとともに在宅医療にも注力、外来部門は総合診療を基本に消化器、整形外科、糖尿病の分野で専門医療を提供している。目指すのは「地域包括ケアシステムのコアとなる病院」だ。2009年度から2022年度まで14年間連続で黒字を継続、2017年には自治体立優良病院総務大臣賞を受けた同病院の経営改革の経緯と今後の生き残り戦略について、2005年から経営の舵を取る院長の阪本研一氏に聞いた。
(聞き手:千田敏之=医療ジャーナリスト)
急性期から包括期、慢性期、在宅医療までを広くサポートする地域密着型の病院
──まず、こちらの病院の概要からお願いします。
阪本 当院は1953年に美濃市の医療を担うために開設された市立の病院で、経営形態は地方公営企業法一部適用です。急性期から包括期、慢性期、在宅医療までを広くサポートする地域密着型の病院です。総病床数は現在122床、地域包括医療病棟1病棟45床、地域包括ケア病棟2病棟77床という病床構成です。地域包括医療病棟は昨年12月にDPCの病棟から転換したばかりです。診療科は内科、外科、整形外科。非常勤で眼科、脳神経外科、皮膚科、泌尿器科などの先生方に来ていただいています。

──2次医療圏の特徴は?
阪本 岐阜県には5つの医療圏があり、当院が位置するのはちょうど真ん中にある中濃医療圏です。その中の西南地域が実質的な医療圏で、美濃市1.8万人、隣接する関市が8万人、合計で約10万人ほどの人口の地域です。その10万人のエリアの中に、美濃市にある122床の当院、関市にある495床の岐阜県厚生連の中濃厚生病院、150床のケアミックスの民間病院の3病院があります。当院は公立病院で、経営力がある方ではなく、存続が難しい病床規模でもあるので、院長になった時から、この苦しい状況をどう打破していくかを常に念頭に経営を行ってきました。
「明確な方針のもと効率的な病院運営」が経営の最大の特徴
──先生は美濃病院の経営が大変な時期に院長に就任され、経営を立て直されたとうかがっています。就任してまず行われたことは?
阪本 私は、美濃病院が現在の場所(美濃市中央)に新築移転する直前の2003年1月に赴任しました。病院は同年6月に移転したものの、建設に多額の費用がかさんで赤字決算になりました。さらに医師の新臨床研修制度の影響もあって、人材確保も難しくなりました。そんな中、赴任2年後の2005年に院長に就任しました。
就任してすぐに病院理念と基本方針(表1)を作りました。理念は「地域から選ばれる満足度の高い医療サービスの提供」としました。先ほども話したように地域には3つの病院があり、漫然と経営をしていたら消えてしまう可能性が高かったので、まず住民から「選ばれる」ことが大切だと考えて、このような理念としました。
基本方針は5つ立てました。この中の5番目「明確な方針のもと効率的な病院運営に心がけます」が当院の経営の最大の特徴です。
──「効率的な病院運営」とは具体的には?
阪本 例えば診療報酬の入院基本料の選択です。他の医療機関も含めた地域の医療提供体制の中で、自院が本当に必要とされ、最適化された医療機能を提供しているかどうかを常に考えながら病棟運営をしてきました。当院は時間をかけて今の包括医療重視の病棟構成に移行させてきましたが、それは効率性を重視しての結果です。
もう一点重視したのが医師をはじめとする職員一人ひとりの働き方です。効率性を突き詰めると個人の働き方に帰結するので、そこは意識して変えました。代表例が医師の働き方です。通常、医師を集める場合、診療科ごとに専門とする医師を集めますよね。でも当院のような中小規模の病院になると、それぞれ専門医を集めてきて各科を構成することは土台無理な話なので、1人の医師がある時は自分の専門分野の医師として働く、またある時は総合診療医として働くというように、「両立」を意識して動いてもらうようにしました。
そのような美濃病院での医師の働き方を明文化したのが2010年に作った「美濃病院に期待される医師像 10ヶ条」です(表2)。この2つ目の「地域性を理解した上で、専門性の高い医療と地域医療をバランスよく提供できる」が今お話ししたことです。
その他、連携やチーム医療の重要性も強調しています。8番目に「業務効率・経営効率を考慮して」と言っていますが、当時はまだ医師に対してこういったことを求める時代ではなかったのですが、あえて10ヶ条に掲げて経営を行ってきました。この10ヶ条は医師の人事考課の基準にもしています。
このように、病棟運営から、医師の働き方まで、多層的に効率性を追求していく経営を、迅速性を持ってやってきたというのが当院の経営です。公立病院というと迅速性に欠けると言われることもありますが、当院は病床規模も組織も小さな病院ですから小回りが利きます。その迅速性をフルに活かしながら経営環境の変化に対応してきました。
「成長期」、まず目指したのは「専門併設型地域密着病院」
──様々な経営改革が奏功、2009年度には単年度黒字化を達成、2022年度まで14年連続で黒字を維持したとのことですが、経営改革の経緯をお話しください。
阪本 2005年から22年間、病院経営に携わってきました。この間、大体4つのフェーズがあったと考えています。
まず「成長期」で、2011年ころまでがこのフェーズにあたります。先ほどの基本方針と10ヶ条に則って経営を進めたのですが、ここでまず目指したのは「専門併設型地域密着病院」です。私は消化器外科医で内視鏡手術を行います。副院長は整形外科医で脊髄の手術を行います。もう一人の副院長は内科医で糖尿病の専門医です。この3分野を当院の専門分野と位置づけ、ハイレベルな医療を提供することにしました。一方で、それ以外は地域密着型の総合診療に徹することにしました。どんな疾患でも住民の方にはとりあえず当院に来てもらい、ここで初期診療を行い、必要ならば県内の専門医療機関を紹介するという、「地域のハブ病院」の役割を果たすことにしたのです。
──それで業績が上向いていったと。
阪本 はい。当院では、医業収入から経費だけではなく、引いた数字を『真の利益率』とし、独自の経営指標として、経営効率をモニターしてきました。移転直後は赤字だったものが、改革を進めることによって7〜8%の真の利益率が出るようになり、2011年度は19.88%にもなりました。
「修正期」には「機能アップのための増床なき増改築」
──好調だった「成長期」を経て、次にどのような手を。
阪本 その次は増改築などを行った2017年ころまでの時期で、「修正期」と呼んでいます。真の利益率が20%近くまで行った数年後、2014年に次なる展開をどうするかという話になりました。私は地域医療の更なる効率化を進めようと考えました。具体的には地域包括ケアシステムという言葉も出始めていたので、地域でそのコアになる病院を目指すことにしたのです。
近い将来、地域の診療所の医師は高齢化していくから必ず減っていく、そうなると、当院がかかりつけ機能を担当することになります。それに対応するためには、外来機能を充実させる必要があると考えました。同時に病気になる人を減らすためには、疾患を早期発見する必要があるということで、検診事業にも積極的に取り組むことにしました。検診は利益率が高く収益的にもプラスに働きますし、健常者が病院に訪れることで、病院のアピールにもつながると考えたのです。
一方で、病床を増やすことはあえてしませんでした。当時の人口動態の予測では、この地域の入院患者はまだ10年、15年の間は増加傾向という予測は出ていましたが、病床を増やすのではなく、在宅復帰を支援するなどの機能によって回転率を良くすれば、今の病床数でも対応できると考えました。そうすれば看護師等の人件費も増やさずに済み、効率性も増します。
そうした計画を市長、市議会にプレゼンし、承認していただき、内部留保もあったので約18億円を使って外来棟の拡張や、救急室・内視鏡センターの整備、検診や人間ドックを行う健康管理センター、在宅医療の拠点となる在宅医療支援センターなどの新設を行いました。この将来を見据えた「機能アップのための増床なき増改築」が完成したのは、2016年7月のことでした。

──この間、病床も包括医療重視の構成に変えていかれたわけですね。
阪本 院長に就任した当時はすべて出来高の一般病棟でした。その後、2009年にDPCを導入しましたが、高齢患者や長期入院患者もいるということで、当時、診療報酬にあった亜急性期入院医療管理料(2014年に廃止)と併存する形で運営していました。その後、2014年に新設された地域包括ケア病棟を1病棟設け、2018年には2病棟としました。そして、冒頭お話ししたように、昨年12月にDPC病棟を地域包括医療病棟に転換しました。このようにその時々に当院に相応しい病棟種別を選択しながら、現在の包括医療重視の構成に移行させてきました。それは、2014年に立てた「地域包括ケアシステムのコアとなる病院を目指す」という目標にも合致するものだったと考えています。
中小病院が生き残るために必要な4条件
──その後の経営の経緯は?
阪本 2010年頃より薬剤費・物価・人件費の上昇等を背景に、全国の病院の経営状況が悪化していきました。当院もその例にもれず、徐々に黒字幅も縮小、2009年から続いていた経常収支の連続黒字も2023年度にストップしました。公立病院は人事院勧告に従って給与を上げなければならず、そうした不可避要因も赤字の原因と言えます。この間、新型コロナウイルス感染症対応もあり、コロナ助成金によって経営が一息ついた時期もありましたが、先行きは不透明でした。このコロナ対応を挟んだ2017年〜2022年は当院にとって「模索期」と言えるでしょう。
その後、2023年以降、現在に至るまでは「ポストコロナ期」と捉え、コロナ助成金がなくなり、人件費、薬剤費、物価などの上昇が続く今の状況にどう対応していくかという段階にあります。
── その「ポストコロナ期」、どういった考えで経営を行おうと考えていますか?
阪本 現在、中小の自治体病院が置かれた状況は極めて厳しいと考えられます。私は中小の生き残りに必要な条件として次の4つを考えています。
一つは「地域での役割を明確にして、効率的な医療体制を築くこと」です。「効率」は私が一貫して追求してきたことですが、当院はこれからも最小限の医療資源で機能する効率的な病院の体制を目指したいと思います。
次に「基幹病院と強固な連携を築くこと」です。地域の連携体制を広域に繋ぐ医療ネットワークを構築することで、地域の医療システムの効率化に寄与することが大切だと考えます。
3番目は「医師確保ルートを確立すること」です。医師に選ばれる強みを確固たるものにし、可能な限り複数の基幹病院との協力関係を構築して、医師の確保体制の安定化を図ることが中小病院には欠かせません。
そして4番目は「働きやすい環境の整備」です。働きやすさの実現は、職員確保と業務効率化の2点で不可欠です。当院もDXやAI等も活用しながら、職場環境の整備にこれからも注力する考えです。
「医師の確保育成」や「地域の医療機関の効率的な役割分担」などを目的に連携法人設立
──「基幹病院との連携」ということでは、2024年に地域医療連携推進法人を立ち上げられましたね。当初、参加法人・組織が位置する医療圏がすべて異なることでも話題になりました。
阪本 はい、2024年4月に地域医療連携推進法人「美濃国地域医療リンケージ」を設立しました。当初の参加は当院の開設者である美濃市、笠松町で松波総合病院を経営する社会医療法人蘇西厚生会、海津市医師会病院(112床)を開設する一般社団法人海津市医師会の3つです。松波総合病院は隣の岐阜医療圏に位置する501床の急性期病院です。
連携法人の理念は「医療圏の垣根を超え、お互いに補完し合うことで、急速に進む少子高齢化の中で、安定性と持続性を併せもった効率的な医療提供体制を構築し、それぞれの地域住民の暮らしの安心を実現する」としています。
──連携法人設立の発案はどちらから。
阪本 当院からです。中小の病院は、色んな面で単独でやるにはやっぱり限界が出てくるので、連携するという発想がやっぱり必要になってきます。最初から連携法人を作ろうと考えたわけではなく、連携協定を作って、医師の確保などができればと考えていたのですが、話が発展して連携法人になりました。
運営方針には、「医師の確保育成」や「地域の医療機関の効率的な役割分担」などを掲げていて、現在、松波総合病院からは医師を1人派遣していただいています。当院としては、例えばここの医療圏内では解決できない疾患などを、送ったりするような連携から進めていきたいと考えています。
連携というと同じ地域、同じ医療圏で行うというイメージが強いと思いますが、医療圏が違ってもできる連携もあるということをしっかりと示していきたいと思います。「美濃国地域医療リンケージ」には、その後、2026年の1月に羽島市民病院(271床)を開設する羽島市、6月に各務原市の機能強化型在宅療養支援診療所である小林内科(19床)が参加し、今は5つが参加しています。病床数合計でも1025床となり、それなりのインパクトのある規模になってきましたので、この連携法人で次に何ができるのかを参加法人・団体の皆さんと検討し始めている段階です。

愛知県生まれ、日経BP社にて日経メディカル、日経ヘルスケア、日経ドラッグインフォメーション等、医療媒体の編集長を歴任。2020年に独立、医療ジャーナリストとして活動。
